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「Why This Kolaveri Di」から世界へ~アニルドが語るアリジット・シンへのリスペクト

現在のインド映画音楽界において、最も強い影響力を持つ音楽監督のひとりがアニルド(Anirudh Ravichander)だ。

Billboard Indiaのインタビュー企画「50 Notes」では、自身のキャリアを振り返りながら、アリジット・シン(Arijit Singh)への思い、コンサートに対する姿勢、そして彼の人生を一変させた「Why This Kolaveri Di」について語っている。

アニルドのキャリアを語るうえで、やはり避けて通れないのが2011年に発表された「Why This Kolaveri Di」だ。ダヌシュ(Dhanush)が主演したタミル語映画『3』のために作られたこの曲は、正式な映画公開を待たずしてインターネット上で爆発的に拡散。当時まだ20代前半だった新人音楽監督アニルドの名前を、一気にインド全土へ知らしめた。

「Kolaveri Di」の重要性は、単なる大ヒット曲だったことだけではない。タミル語と英語を混ぜた、いわゆる「Tanglish」のユーモラスな歌詞、非常にシンプルなメロディ、そしてダヌシュの脱力した歌唱によって、言葉が完全に理解できなくても楽しめる曲になっていた。インドの地域映画の楽曲がYouTubeを通じて言語圏を越えて拡散するという、現在では当たり前になった現象を早い段階で象徴した作品でもある。アニルドはこの一曲によって、デビュー時点から従来の「映画音楽監督」の枠を越えた存在となった。彼のデビュー作が『3』であり、「Kolaveri Di」が世界的なバイラルヒットとなったことは、その後のキャリアを考えるうえでも重要な出発点だ。

しかし興味深いのは、それから十数年を経た現在、「Kolaveri Di」がアニルドの代表曲のひとつではあっても、もはや彼のキャリア全体を代表するには小さすぎる存在になっていることだ。

『Kaththi』『Vivegam』『Petta』『Master』『Beast』『Vikram』『Jailer』『Leo』など、タミル映画の大作を次々と担当。ラジニカーント(Rajinikanth)、ヴィジャイ(Vijay)、カマル・ハーサン(Kamal Haasan)といった南インド映画界最大級のスターたちの作品において、アニルドの音楽は映画の「付属物」ではなく、作品の期待値そのものを引き上げる重要な要素となっていった。さらに『Jawan』(2023)ではシャー・ルク・カーン(Shah Rukh Khan)主演の大作を手掛け、本格的にヒンディー映画へ進出。ここでアニルドと北インドを代表する歌手アリジット・シンとの接点も、より象徴的なものになっていく。

アリジット・シンへのリスペクト

アニルドとアリジットは、現在のインド音楽界を象徴する二人と言っていい。ただし、その立ち位置はかなり異なる。

アリジットが「声」によって映画や言語の壁を越えてきた存在だとすれば、アニルドは作曲、編曲、プロデュース、歌唱、そしてライブパフォーマンスまでを一体化させることでスターになった音楽監督である。

アニルド自身も歌手として非常に人気が高いが、アリジットについて語る際には、同じ歌手として競争するというよりも、その声や音楽家としての能力に対する敬意が感じられる。これは現在のインド映画音楽の面白さを象徴している。ヒンディー、タミル、テルグといった産業の境界が以前よりも曖昧になり、「ボリウッドの歌手」「南インドの音楽監督」という分類だけでは説明できない時代になっているからだ。

インド映画の音楽監督がアリーナを埋める時代

そしてアニルドの特殊性が最もよく表れているのがコンサートだ。インド映画音楽では伝統的に、作曲家はあくまで映画制作の裏側にいる存在だった。しかしアニルドは自らマイクを握り、自分の楽曲を観客の前で歌い、巨大な会場をひとつのショーとして成立させる。

「Hukum World Tour」に代表される彼のライブでは、映画のサウンドトラックが、そのままポップスターのヒット曲のように機能する。実際、彼のコンサートはタミル、テルグ、ヒンディーのヒット曲を横断する巨大なエンターテインメントとして展開されている。

ここには、アニルド以降のインド映画音楽を考えるうえで重要な変化がある。かつて映画音楽監督にとって最大の商品は「映画」だった。しかしストリーミングやYouTube、SNSが普及した現在、映画から切り離された楽曲そのものにファンダムが生まれるようになった。さらに、そのファンをコンサートへ呼び込めるようになったことで、音楽監督自身がポップスター化している。

アニルドは、その変化を最もわかりやすく体現している人物のひとりだ。

「Why This Kolaveri Di」は偶然。しかし、その後は偶然ではない

だからこそ「Why This Kolaveri Di」を現在の地点から振り返ると興味深い。突然世界的なバイラルヒットを生み出した新人が、そのまま一発屋になっていたとしても不思議ではなかった。しかしアニルドはそこから十年以上にわたってヒットを作り続け、南インド映画最大級のスター俳優たちから次々と作品を任され、さらにヒンディー映画、ストリーミング、そして世界各地のコンサートへと活動範囲を広げていった。

しかも彼の音楽は、EDM、ヒップホップ、ロック、エレクトロニック・ミュージック、南インドの民俗音楽的リズムなどを大胆に混ぜながら、最終的には極めてキャッチーな「映画のための音楽」へ着地する。西洋的なポップ・プロダクションを積極的に取り込みながら、インド映画特有のスター文化とも結びついていることが強みだ。

「Why This Kolaveri Di」でインターネット時代の申し子として登場した青年は、いつしかインド映画音楽そのものの変化を象徴する人物になった。

そしてBillboard Indiaの「50 Notes」から浮かび上がるのも、単なるヒットメーカーとしてではなく、作曲家、歌手、プロデューサー、ライブアーティストという複数の顔を同時に持つ、新しいタイプのインド映画音楽家としてのアニルドである。

「Kolaveri Di」がインドの地域音楽をインターネットによって世界へ届けた最初期の象徴だったとするならば、その曲から始まったアニルド自身のキャリアもまた、タミル映画からインド全土へ、そして世界へと広がっていった。

偶然のように生まれた一曲から始まり、その後もヒットを重ね続けた十数年間。その歩みこそが、「Why This Kolaveri Di」以上に興味深いアニルド最大の物語なのかもしれない。

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