
テムス・クローヴァー(Temsu Clover)の新曲「feeling good」~ナガランドから広がる新世代インディーズ・ポップ
インド北東部ナガランド州ディマプルを拠点に活動するシンガーソングライター、テムス・クローヴァー(Temsu Clover)。本名テムスカラ・レムトル(Temsukala Lemtor)の彼女は、2019年に「Confessions of a bipolar mind」で音楽活動をスタートし、ベッドルーム・ポップ、インディーポップ、ソウル、R&Bなどを横断するサウンドでキャリアを築いてきた。
ちなみにナガランドは、モンゴロイド系先住民族(ナガ)をルーツにもつ者が多く、そのため日本や中国人に似た系統の顔が多いことでも知られている。
そんなテムスが2026年8月10日に発表したのが「feeling good」だ。近年の彼女の活動を追っていると、この曲は単発の新曲というより、テムスが次の段階へ進もうとしている現在のモードを象徴する作品として捉えることができる。
もともとテムスは、柔らかな歌声と内省的なソングライティングを特徴としてきた。2023年にはアルバム『Hello Love』を発表し、「Other End」「Intoxication and Other Things」「Antidote」などを収録。2024年の「Parasite」では、それまでのメロウで穏やかなイメージから離れ、より実験的な方向へ踏み込んでいる。地元メディアも「Parasite」を従来のサウンドからの大きな変化として紹介していた。
さらに2025年には「Slide」「Beautiful hurt」、2026年1月には「Don’t Wanna Be」を発表。そして3月には、日本のギタリスト兼プロデューサー、ソエジマトシキ(Toshiki Soejima)とのコラボレーション「Shine」に参加した。ネオソウルを軸とするソエジマのギターとテムスのヴォーカルが融合したこの曲は、彼女がナガランドというローカルなシーンから国際的なインディー/ネオソウルのネットワークへと接続し始めていることを示す作品でもあった。
「feeling good」も、そうした流れの延長線上に位置する一曲と考えると興味深い。テムス自身は2026年5月のインタビューで、新しいEPを制作していることを明かしている。そこで彼女は、これまで大切にしてきた「誠実さ」「感情表現」「希望」という軸を維持しながら、待つこと、愛、受容といった異なる感情の季節を描き、サウンドとプロダクションについては以前よりも大胆な方向へ進んでいると説明している。
つまり現在のテムスは、自身の繊細なシンガーソングライター性を失わないまま、より現代的なポップ/R&Bへと音楽のスケールを広げようとしている。
その背景には、ナガランドの音楽シーンそのものの変化もある。ナガランドを含む北東インドは、ロック、ゴスペル、R&B、インディーポップなど英語圏のポピュラー音楽との距離が非常に近い地域だ。2026年には地元紙も、ナガランドのミュージシャンが国内外とのコラボレーションを増やし、地域の音楽産業が転換期に入っていると報じている。その記事でテムス自身もシーンを代表するポップ・アーティストの一人として取り上げられた。
テムスの面白さは、まさにその「北東インド発」という背景を持ちながら、音だけを聴けば国籍や地域性を過剰に意識させないところにある。彼女が影響源として挙げているのも、世界のインディーポップ/R&Bと直接つながるアーティストたちだ。2026年のインタビューでは、将来的にkeshiやNIKIとのコラボレーションを希望していること、さらにボリウッドでも仕事をしてみたいと語っている。
「feeling good」は、そんなテムスがローカル・シーンの才能という枠を越え、アジアのインディーポップ/R&Bというさらに大きなフィールドへ進んでいく現在地を伝える新曲だ。ボリウッドとはまったく異なるところでも、インドのポップミュージックが世界と同時進行で進化している。その動きを知るうえでも、テムス・クローヴァーは今後注目しておきたい北東インドのアーティストの一人である。


