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ファッション・インフルエンサーから音楽へ~マルヴィカ(Malvika)「Ear Candy」

ロサンゼルスを拠点に活動するインド系アメリカ人シンガーソングライター、マルヴィカ(Malvika/Malvika Sheth)が、新曲「Ear Candy」をリリースした。ダークなシンセポップやR&Bを軸に、インド古典舞踊の音楽的要素をさりげなく忍ばせた一曲だが、彼女の経歴を振り返ると、この東西の文化が交差するサウンドは極めて自然なものだ。

マルヴィカは1998年、カリフォルニア生まれ。両親はムンバイで育ったインド人で、アメリカで生活しながらも家庭内ではボリウッド映画に親しみ、定期的にムンバイを訪れるなど、幼い頃からアメリカとインド、二つの文化の間で育った。4歳頃からインド古典舞踊バラタナティヤムを学び、7歳からはピアノも習っている。バラタナティヤムは家族三世代にわたって受け継がれてきたもので、高校卒業前には生演奏をバックに約3時間に及ぶソロ公演を経験した。現在の彼女が音楽で重視するリズムや身体性、感情を物語として表現するスタイルにも、この経験がつながっている。

一方、大学進学を機にダンスから離れたことで、新しいクリエイティブな表現の場を求めるようになる。バブソン大学でマーケティングなどを学びながら、18歳頃にファッションブログ「Stylebymalvika」をスタート。高校時代にはムンバイの刺繍関連企業でインターンを経験し、その後もストリートウェアブランドや『HELLO! India』などでファッションとデジタルメディアの現場に触れていった。大学を3年間で卒業すると、本格的にデジタル・クリエイターとして活動。ファッションや美容を中心に20万人以上のフォロワーを獲得し、Tory Burch、L’Oréal、Pandoraなど数々のブランドとも仕事をするまでになった。

しかし、SNSで成功すればするほど、「人々が見たい自分」と「本当の自分」との間に距離を感じるようになったという。アルゴリズムやエンゲージメントを意識し、「見せるための自分」を作ることに長けていく一方で、自分自身が本当に表現したいものを探し始めた。その新しい出口となったのが音楽だった。日記が詩となり、やがて歌詞へと変化。2025年から本格的にシンガーソングライターとして作品を発表し始める。

2026年2月には5曲入りのデビューEP『Online/irl』をリリース。SNS時代における「オンライン上の自分」と「現実の自分」の二重性を題材に、他人から見られること、自己イメージ、そして本来の自分を取り戻すことを描いた。インフルエンサーから突然歌手へ転向したというより、SNSの世界で長年生きてきたからこそ生まれた作品だったといえる。

そして、その延長線上にあるのが2026年8月発表の「Ear Candy」だ。

プロデュースはEPでもタッグを組んだLionoath Studiozのアビシェーク・シン(Abhishek Singh)。太いベースと跳ねるようなビートを中心にしたダークポップ/R&Bで、冒頭にはバラタナティヤムとも結びつきの深いグングルー(足鈴)を配置している。インド的な要素を大々的に押し出すのではなく、現代的なポップミュージックの中へ自然に溶かし込んでいるのが特徴だ。

一聴すると、自分の魅力を理解した女性が相手を誘惑するセクシーで遊び心のあるポップソング。しかし、その裏側にあるのは「注目されることと、本当に理解されることは同じなのか?」という問いだ。ファッション・インフルエンサーとして大勢から“見られる”人生を送ってきた彼女だからこそ、このテーマには説得力がある。「人に見せたい自分」を完璧に演じられても、それは必ずしも親密な人間関係や、本当の自分を知られることにはつながらない。

「Ear Candy」は今後発表されるアルバム『December, Baby』の第1弾シングルでもある。バラタナティヤム、ボリウッド、2010年代R&B、エレクトロポップ、そしてSNS時代のインフルエンサーとしての経験。そのすべてを切り離さず、自分自身のポップミュージックへ変換しているところにマルヴィカの面白さがある。インド系アーティストだからインド音楽を取り入れるのではなく、彼女自身の人生に最初から存在していたインドとアメリカの両方を、そのまま現代的なポップへ落とし込んでいる。

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