
「Pareshaan」から“自分自身の音楽”へ~シャルマリ・コールゲイドが語る恋愛、社会、そしてボリウッド……。
2010年代のボリウッド音楽を聴いてきた人なら、シャルマリ・コールゲイド(Shalmali Kholgade)の歌声を一度は耳にしているはずだ。
そんなシャルマリの音楽性やインスピレーションの源について、人気ウェブチャンネル「Humans of Bombay」で語ったいんたびゅーが公開となった。
2012年、映画『Ishaqzaade』の「Pareshaan」でプレイバックシンガーとして鮮烈なデビューを飾ると、『Cocktail』の「Daaru Desi」、『Race 2』の「Lat Lag Gayee」、『Yeh Jawaani Hai Deewani』の「Balam Pichkari」、さらに『Sultan』の「Baby Ko Bass Pasand Hai」など、立て続けにヒット曲を担当。とりわけアップテンポな楽曲で見せるパワフルで少しハスキーな歌声は、2010年代ボリウッドを象徴するサウンドのひとつとなった。
しかし、シャルマリ自身が本当に目指していたのは、プレイバックシンガーとして誰かのために歌うことだけではなかった。
彼女はボリウッドに入る以前から、自ら曲を書き、作曲し、自分自身の音楽を作りたいと考えていた。本人が振り返っているように、映画音楽では基本的に、すでに作詞・作曲された楽曲に対して歌手が声を吹き込む。そのため、どれだけ素晴らしい歌唱をしても、それは完全な意味で「自分の作品」ではない。
しかも「Pareshaan」の成功はあまりにも突然だった。シャルマリは当時、海外で音楽を学ぶことも考えていたが、予想外の成功によってインドに残り、プレイバックシンガーとしてのキャリアを選択した。本人は後年、苦労らしい苦労を経験する前に成功してしまったことに戸惑いさえ感じていたと明かしている。つまり、ボリウッドでスターになることは、彼女が最初から描いていたゴールではなかったのである。
“女性が男性に求めるもの”とは?
そんなシャルマリという人物を理解するうえで興味深いのが、夫ファルハーン・シャイフ(Farhan Shaikh)とのラブストーリーだ。
二人が出会ったのは、プレイバックシンガーのナカーシュ・アジーズ(Nakash Aziz)を通じてだった。ファルハーンは彼のいとこであり、仲間たちとの集まりにシャルマリも顔を出すようになったことで、少しずつ会話を交わすようになったという。しかし、いわゆる「一目惚れ」ではなかった。
シャルマリが男性に対して最も魅力を感じるのは、ルックス以上に「知性」だった。ファルハーンと話し、考えを共有し、お互いを知っていくほど、彼への興味が強くなっていったという。さらに恋愛を動かしたのも彼女自身だった。最初のデートに誘ったのはシャルマリで、二人はコメディアンのヴィール・ダース(Vir Das)のショーを観たあと、食事へ出かけている。
「女性は男性に何を求めるのか」という問いに対する彼女の考えも、ここから見えてくる。シャルマリにとって恋愛とは、男性に守ってもらうことでも、ドラマティックなロマンスを経験することでもない。彼女はファルハーンとの関係を通じて、それ以前に「愛している」と思っていた感情さえ、本当の愛ではなかったのではないかと考えるようになったという。
そして彼女は、愛を「相手を深く理解すること」と捉えている。この考え方は、彼女の音楽にもそのまま流れ込んでいる。
恋愛が”自分自身の音楽”になっていく
実際、シャルマリのインディペンデント作品にはファルハーンとの関係から生まれた曲が少なくない。
アルバム『2X Side B』では、「Chills」「Interrupt Me」「Locomoco」「Enough of You」「Tum Na Mile」の5曲がファルハーンからインスピレーションを受けているという。
これはボリウッド時代との大きな違いでもある。「Balam Pichkari」や「Lat Lag Gayee」で彼女を知った人にとって、シャルマリには“パーティソングの歌手”という印象が強い。しかし本人によれば、インディーズで作っている音楽は、ボリウッドで歌ってきた作品とはむしろ正反対だ。映画では与えられた登場人物の感情を歌っていた彼女が、インディーズでは自分自身の恋愛、葛藤、社会への違和感を歌えるようになったのである。
2019年の「Ruka Ruka」も象徴的だ。
同曲が描くのは、関係が終わりかけていることに気づきながら、それでも修復しようとする男女。そして、その背景にあるのがコミュニケーションの不足だった。直接話す代わりにテキストや絵文字だけで会話してしまう現代的な人間関係を、シャルマリは自身の経験とも重ね合わせている。
恋愛について語るシャルマリと、音楽について語るシャルマリは、実は切り離すことができないのだ。
ボリウッドを否定するのではなく、その先へ
重要なのは、彼女がボリウッドを否定してインディーズへ移ったわけではないことだろう。
プレイバックシンガーとしての経験から、楽曲を完成させる技術やリズム、スタジオワークなど、多くのことを学んだとシャルマリは認めている。一方で、パンデミックを契機として「自分には音楽を通じて個人的に表現したいものがあるのか」と改めて考えたことが、インディペンデント活動を本格化させるきっかけとなった。
2026年現在、インドではインディペンデント・アーティストが映画を介さずにヒット曲を生み、単独公演に観客を集めるケースも珍しくなくなった。シャルマリ自身も、この変化を歓迎している。映画会社や巨大な宣伝予算を持たないアーティストにも観客が集まるようになったことは、長年ボリウッド映画音楽がポピュラー音楽市場の中心だったインドにおいて大きな変化だ。
だからこそ、現在のシャルマリ・コールゲイドは興味深い。「Pareshaan」で突然スターとなり、数々のボリウッド映画でヒットを飛ばした女性が、その成功だけに留まらず、恋愛や結婚を経験し、社会やジェンダーについて考えながら、自分自身の言葉と音楽を探していく。
さらに彼女は、イスラム教徒であるファルハーンとの異宗教間結婚をめぐって激しいネット上の中傷を受けた経験も明かしている。当初は涙を流すほど傷ついたものの、その怒りを最終的には楽曲へと変換したという。
それもまた、現在のシャルマリを象徴している。
ボリウッドでは、スクリーンの中にいる“誰か”の喜びや恋愛を歌っていた。しかし現在は、自分が愛したこと、傷ついたこと、怒ったこと、社会に感じた違和感そのものを音楽に変える。
シャルマリ・コールガデのキャリアは、単なる「ボリウッド歌手からインディー歌手への転身」ではない。
誰かの物語を歌う声だった女性が、自分自身の物語を語るアーティストになっていく過程なのだ。


