『プラダを着た悪魔2』にも出演したシモーヌ・アシュリーがデビューEPをリリース

『プラダを着た悪魔2』や『ピクチャー・ディス ~運命のデート~』などの話題作に出演して注目を集めている、タミルにルーツをもつインド系イギリス人俳優のシモーヌ・アシュリー(Simone Ashley)

そんなシモーヌが本格的に歌手デビューを果たすEP『Songs I Wrote In New York』がリリースされた。

『Songs I Wrote In New York』は、彼女がシンガー・ソングライターとして新たな一歩を踏み出したことを示す6曲入りの作品である。全6曲、約22分というコンパクトな作品ながら、ポップ、R&B、ソウルを軸に、彼女自身の人生や恋愛、新しい環境への期待を穏やかに映し出している。

収録曲は「Sublime」「Free」「Tragic Romantic」「Sign Your Name」「Moving On」「Evening Star」。なかでも「Free」は、恋愛によってもたらされる解放感や幸福感をテーマにした楽曲で、軽やかなビートとピアノ、シンセを組み合わせたソウル・ポップに仕上がっている。歌詞には、過去を振り返りながら新しい恋へ踏み出していく心境が描かれており、彼女自身が語る「hope and freedom」という感覚がそのまま楽曲になったような作品だ。

一方、EPのオープニングを飾る「Sublime」は、よりパーソナルな一曲。ニューヨークで自転車に乗った夏の記憶を思わせる描写から始まり、街の空気や恋愛の高揚感を切り取ったような、柔らかなポップ・ソングになっている。フレイザー・T・スミス(Fraser T. Smith)がプロデュースを担当しており、アデル、サム・スミス、ストームジーらとの仕事で知られる彼の洗練された音作りが、アシュリーの落ち着いた歌声を引き立てている。

「Tragic Romantic」では少し雰囲気が変わる。タイトルが示すように、自分自身の恋愛パターンを客観視するような、自虐的で少し危うい恋愛観がテーマ。単純なラブソングだけで構成されていないところも、このEPの面白さだ。恋愛の幸福だけでなく、失敗や迷い、過去から離れていく感覚までを一つの作品の中に収めている。

そもそもアシュリーにとって歌は突然始めたものではない。オペラやクラシック音楽のトレーニングを受け、ピアノやウクレレも演奏するなど、以前から音楽的素養を持っていた。映画・アニメーション作品の音楽にも参加しており、今回のEPは「女優が突然歌手になった」というより、長年温めてきた音楽への関心を本格的な形にしたものと考えたほうが正確だ。

また、この作品のタイトルに「In New York」と入っていることも重要である。アシュリーは「ブリジャートン家」で世界的な知名度を獲得した後、2026年公開の『プラダを着た悪魔2』でメリル・ストリープ演じるミランダ・プリーストリーの新たなアシスタント、アマリを演じるなど、映画スターとしても新たな段階に入った。ニューヨークでの撮影期間は、彼女にとって演技だけでなく音楽制作にも集中する転機となった。

音楽面では、ギターを中心としたアコースティックな質感に、ピアノ、シンセ、控えめなビートを加えたサウンドが特徴的だ。大規模なダンス・ポップでスター性を誇示するタイプではなく、むしろ声とメロディー、歌詞を前面に出した親密な作品になっている。『Songs I Wrote In New York』というタイトル通り、華やかなハリウッド女優としてではなく、一人の女性が新しい街で経験したことを歌にしていくというパーソナルな感触がある。

そして興味深いのは、アシュリーがインド系のルーツを持つイギリス人であることだ。「ブリジャートン家」では南アジア系女性を世界的なロマンス作品のヒロインとして演じ、大きな注目を集めた。だが音楽では、あえて「インド系アーティスト」であることを前面に押し出すのではなく、マドンナやオアシス、エミネムなど幅広い音楽的影響を吸収した、極めて現代的な英国発のソウル・ポップを提示している。

これは彼女のアイデンティティを考えるうえでも面白い。インド系であることを「インド音楽を取り入れる」という一つの表現方法に限定せず、イギリス、アメリカ、インド系ディアスポラという複数の文化圏を背景に持つ一人のアーティストとして活動しているからだ。

『Songs I Wrote In New York』は、いわゆる「女優の片手間の音楽作品」として片付けるべきEPではない。むしろ、俳優として世界的な成功を収めたシモーヌ・アシュリーが、30代を迎えるタイミングで自分自身の表現領域を広げた作品と見るべきだろう。

しかも彼女はすでにフル・アルバムの制作も進めており、2026年末のリリースが予定されているという。

映画やドラマで彼女を知ったファンにとっては意外な“もう一つの顔”であり、ポップ・ミュージックの視点から見れば、俳優という肩書きを越えて自分の声と物語を発信し始めた新鋭シンガーの登場でもある。『Songs I Wrote In New York』は、その本格的な音楽キャリアのプロローグとして聴くと、より興味深い一枚だ。

関連記事一覧