
ヤング・サミー × フィジアナ「LIKE THAT」でインド音楽とグローバルR&Bが交差
ナイジェリアにルーツを持ち、インドを拠点に活動するラッパー、ヤング・サミー(YUNG SAMMY)。彼が現在制作中の新アルバム『One of A Kind』から、フィジアナ(FIJIANA)を迎えた収録曲「LIKE THAT」のミュージックビデオを公開した。
サミーといえば、英語とヒンディー語を自在に行き来するフロウを武器に、インドのヒップホップ・シーンでも異彩を放ってきた存在。近年はシーデ・マウト(Seedhe Maut)との「MUDDA」などでも存在感を強めており、「MUDDA」のリリックにも“I’m one of a kind”という言葉が登場していた。
『One of A Kind』というアルバムタイトルは、まさに彼がこれまで打ち出してきた「どこか一つの文化やジャンルに収まらない」という自己像を象徴するものといえるだろう。
そのアルバムから登場した「LIKE THAT」は、サミーのヒップホップとしての側面だけを見ると意外に感じられる一曲だ。
最大のポイントは、インド音楽の楽器を装飾としてではなく、現代的なR&B/ヒップホップのトラックへ組み込んでいること。アレンジを手掛けるのはWamp。そして演奏には、ファテー・アリ・カーン(Fateh Ali Khan)によるシタールとプラナーヴ・カンナー(Pranav Khanna)によるタブラが参加している。
シタールやタブラを取り入れたヒップホップ/R&Bという発想自体は決して珍しいものではない。しかし「LIKE THAT」では、いかにも「インドらしい音」を強調するための記号として使うのではなく、サミーとフィジアナのヴォーカルを支える現代的なビートの一部として溶け込ませているところが面白い。
そして、この曲でもう一つ重要なのがFIJIANAの存在だ。
フィジアナといえば、リッチモンド出身のインド系フィジー人ラッパーとして人気急上昇中。フィジーとベイエリアの活気に満ちた多文化的な風景を体現した楽曲を数多くリリースしてきたが、その象徴的ともいえるの「Welcome to the Bay」大ヒットを記録。ベイエリア特有の雰囲気と、シェーナイやバーンスリーといった伝統的な楽器を含むインド系移民のサウンドを組み合わせることで、中毒性を高めることに成功し、2026年5月にインドで開催されたNBAハーフタイムショーへの出演をきっかけに、インド国内でも認知されるようになった。
R&Bやポップを軸としたフィジアナのメロディアスなヴォーカルが加わることで、「LIKE THAT」はストレートなデシ・ヒップホップとは異なる方向へと向かっていく。サミーのラップとフィジアナの歌声を対比させる構成は、2000年代以降のヒップホップ/R&Bで定番となったスタイルでもあるが、そこへシタールとタブラが入ることで独特の質感が生まれている。
しかも本作では、2人が単にデュエットしているだけではない。歌唱、作詞、作曲を両者が共同で担当している。その意味でもフィジアナは、いわゆる「フィーチャリング・シンガー」というより、「LIKE THAT」の世界観そのものをサミーと一緒に作り上げたパートナーと見るべきだろう。
そして「LIKE THAT」は、『One of A Kind』というタイトルが意味するサミーのアイデンティティを考えるうえでも興味深い。
彼はナイジェリアというルーツを持ちながらインドで育ち、インドのヒップホップ・カルチャーの中でキャリアを築いてきた。つまり最初から「ナイジェリア人ラッパー」「インド人ラッパー」といった単純なカテゴリーでは説明しにくいアーティストなのである。
だからこそ、インド古典音楽を象徴するシタールやタブラと、グローバルなヒップホップ/R&Bの感覚が違和感なく同居する「LIKE THAT」は、彼の現在地をよく表している。
かつて欧米のポップスやヒップホップがシタールやタブラを使用する場合、それは楽曲に「エキゾチックなインド」を付加するための演出として機能することも多かった。しかしサミーの場合、インド音楽は外部から借りてきた異国趣味ではない。彼自身が育ってきた文化環境の一部だからだ。その違いは非常に大きい。
「LIKE THAT」は、インド音楽と欧米型R&Bを無理に“フュージョン”させたというより、最初から複数の文化を自分のものとして持っている世代が、自然にそれらを一つの楽曲へ落とし込んだ作品として聴くことができる。
ナイジェリア、インド、ヒップホップ、R&B、そしてフィジアナとのコラボまでを横断するサミー自身の音楽的アイデンティティとして提示する「LIKE THAT」。現在のインド音楽が、もはや「インド国内の音楽」という地理的な枠だけでは語れなくなっていることを象徴する一曲でもある。


