
アジャイ・ジャヤンティ(Ajay Jayanthi)日本独占インタビュー!!
インド音楽情報サイトだからこそ実現させてきた、インド音楽、インド映画音楽界の最前線で活躍するアーティストや音楽監督、プロデューサー、ときに俳優にまでインタビュー企画。
今回実現したのは、『愛しのモニカ』(2022)や「ミルザープル 〜抗争の街〜」、「マトカ・キング」といったOTT映画、ドラマから、アーリヤー・バット主演作『Jigra』(2023)や『ニシャンチ 狙撃の名手』(2025)といった活躍するアジャイ・ジャヤンティ(Ajay Jayanthi)
そんなアジャイの日本メディア独占インタビュー!!
リスペクトする相手には、坂本龍一の名前も?!
Q1)近作を見ると、「ラーク」と『ASI Babita Singh Reporting』では、描かれている世界がかなり異なります。それぞれ脚本を最初に読んだとき、あるいは映像を見たとき、どのような「音」が頭に浮かびましたか?
「ラーク」と『ASI Babita Singh Reporting』は、どちらも捜査をテーマにしていますが、物語の描き方はまったく異なります。
「ラーク」の世界は、物語の始まりから非常に暗く、そのなかで希望の瞬間を見つけていく作品です。一方、『ASI Babita Singh Reporting』では、一見するとごく普通で幸せそうな社会の裏側に潜む悪が描かれています。それぞれの作品のメインテーマにも、そうした違いが反映されていると思います。
「ラーク」のタイトルテーマはパールト・パンディア(Parth Pandya)が作曲したもので、インド古典音楽のラーガをベースにした、非常にダークでメランコリックな楽曲です。僕が劇伴を手掛ける際には、そのテーマを作品全体に取り込みながら、1980年代の映画のサウンドトラックとして聴いても違和感がないような音を目指しました。
「Hum Yahin Hai」を作曲したときも、両親や兄弟が家でいつも流していた、あの時代のボリウッド音楽へのオマージュにしたいと考えていました。
一方、『ASI Babita Singh Reporting』のテーマには本質的に希望があります。ただ、物語が進むにつれて、そこに次第に暗い色合いが加わっていきます。この作品では、舞台となる地域のフォーク・ミュージックの要素をサウンドスケープに反映させたいと考えました。
つまり、「ラーク」がグローバルなアレンジを取り入れながらもインド古典音楽をベースにしていたのに対して、『ASI Babita Singh Reporting』では、フォーク・ミュージックを中心的なアイデアに据えています。
Q2)キャリア初期には、ヴァイオリニストとして多くのアーティストと共演されています。そこから作曲やプロデュース、さらに映画やドラマの音楽を手掛けるようになった大きなきっかけは何だったのでしょうか?
もともと作曲にはずっと興味がありました。僕はクラシック音楽家の家庭で育ちましたし、僕が育った街もインド各地からさまざまな人々が集まる場所でした。そのため、インド音楽にしても西洋音楽にしても、自然と幅広い音楽を聴くようになったんです。
音楽制作については、僕が参加していたクレイジー・エレクトロン(Krazy Electrons)というエレクトロニック・アクトのバンドメンバーのひとりから教わり始めました。その後、新進のバンドに「一緒にやらないか」と声をかけて、プロデュースやミックスを担当するようになりました。やがて、そうしたアーティストたちが映画の仕事を始めるようになり、僕も彼らの作品をプロデュースするようになっていきました。
周囲には本当に恵まれていました。友人やミュージシャンたちが、自分の不安やエゴにとらわれることなく、音楽制作や作曲のコツや技術を惜しみなく共有してくれたんです。
そうした経験がひとつひとつつながって、最終的に映画音楽を作曲するようになりました。ですから、「これがきっかけで転向した」という決定的な出来事があったというより、映画音楽の世界へ自然と溶け込んでいった、という感覚に近いですね。
Q3)ヴァイオリン以外の楽器も演奏されていますが、作曲するときはやはりヴァイオリンから考えることが多いのでしょうか? それとも、あえて得意な楽器から離れることもありますか?
最近は、意識的にヴァイオリンから離れて作曲するようにしています。ただ、以前の楽曲については、ヴァイオリンから生まれたものが多かったですね。
ギターやピアノは音域が広く、コードとメロディを同時に扱えるので、作曲について考えやすいという利点があります。
ただ、最終的にメロディが固まるのは、その旋律を自分自身が覚えていて、スタジオを離れて散歩をしているときや食事をしているときでも、簡単に口ずさんだり、口笛で吹いたりできるようになったときですね。
Q4)近年のインド映画やドラマでは、大編成のオーケストラだけでなく、エレクトロニック、フォーク、ヒップホップ、アンビエントなど、さまざまな音楽が自然に取り入れられています。現在、インドの映画音楽は大きな転換期を迎えていると思いますか?
全くその通りです。そう思います!!
まず理解しておく必要があるのは、インドは独立した当時、経済的に非常に厳しい状況にあったということです。さらに輸入品には高い税金が課されていたため、ハードウェアが中心だった時代には、電子楽器は非常に高価なものでした。
そのため、当時のインドの音楽は、国内で製造されていて比較的入手しやすかった楽器や、インドのオーケストラを中心に形作られていったのだと思います。
しかし、1991年の経済改革以降は輸入関税が引き下げられました。それに加えて、デジタル音楽制作やソフトウェア・シンセサイザー、VST音源の登場によって音楽制作そのものが民主化されたことも、サウンドスケープを大きく変化させた要因だと思います。
当初は、特にポップ・ミュージックの分野で、西洋音楽を模倣しようとしていた部分も少なからずあったと思います。しかし現在は、自分たち自身の音楽に対して、以前よりずっと自信を持てるようになりました。
今では多くのミュージシャンが、自分自身の声やスタイルを保ちながら、そこにグローバルな感覚を加える非常に面白い方法を見つけています。
Q5)ここ3~4年で非常に多くの作品を発表されています。作曲家として、ご自身を取り巻く環境が変わってきたという実感はありますか?
もちろんあります。
以前はひとりで仕事をしていましたが、現在は小規模ながら非常に優秀なチームがいて、常に新しいことに挑戦しながら、表現の限界を押し広げようとしています。
自分のなかでは、ようやく「新人」という段階を卒業して、この世界にも少し馴染んできた時期なのかなと思っています。
とはいえ、プロジェクトは毎回まったく異なります。それぞれの作品にふさわしい新しい言語を、そのたびに一から学んでいるような感覚ですね。
Q6)劇場公開作品とOTT作品では、音楽制作に違いはありますか? たとえば、作曲のプロセスそのものが大きく変わることはあるのでしょうか?
作曲家として僕が最も重視しているのは、物語と、その作品が持っているナラティブのムードです。ですから、基本的には「どの媒体で公開されるか」ではなく、「その作品が何を必要としているのか」に合わせて音楽を作っています。
ただ、OTT向けに制作される作品と、劇場公開を前提として制作される映画では、企画される作品の傾向自体に違いがあるようには感じています。
配給会社や映画制作者の側には、「劇場で成功する映画にするためには、スペクタクルでなければならない。日常生活を描いた親密な物語では難しい」という考えがあるように思います。
Q7)近年、日本のポップカルチャーがインドの映画・音楽業界にも影響を与えるようになっています。これまで日本的な要素を取り入れた音楽を手掛けた経験はありますか? また、今後そのような作品に参加してみたいと思いますか?
僕自身、坂本龍一や梅林茂をはじめ、さまざまな日本のアーティストのファンです。ワールズ・エンド・ガールフレンドも大好きですよ!
タジダール・ジュネイド(Tajdar Junaid)のバンドに参加していた頃には、坂本龍一さんの「Rain」をカヴァーしていました。また、以前手掛けたドキュメンタリー・シリーズ「インド凶悪殺人事件録: あるシリアルキラーの日記」では、日本の楽器をサンプリングして使用したこともあります。
ただ、それ以上に日本音楽を深く掘り下げる機会は、これまであまりありませんでした。ふさわしいプロジェクトに出会えたら、ぜひもっと深く探求してみたいですね。
Q8)答えられる範囲で構いませんが、今後音楽を担当する予定のドラマや映画があれば教えてください。
現在は、仮題『Pushpak Viman』というNetflixシリーズに取り組んでいます。こちらは来年初頭に配信される予定です。
また、10月公開予定の映画『Raftaar』では、1曲の作曲と劇伴を担当しました。
そのほかにも、来年に向けていくつかの映画やシリーズが進行しています。
Q9)最後に、まだあなたのことを知らない日本の音楽リスナーに向けて、メッセージをお願いします。
こんにちは、アジャイです!
僕は映画やドラマのために音楽を作っています。ヴァイオリンから鍋やフライパン、そのほかありとあらゆる調理器具まで、音が鳴るものなら何でも使います(笑)。
いつか日本の映画でも音楽を手掛けることができたらと思っています。
インドから愛を込めて!

【アジャイ・ジャヤンティ / Ajay Jayanthi】
インドの映画・ドラマ音楽シーンで存在感を高めている作曲家、プロデューサー、ヴァイオリニストのアジャイ・ジャヤンティ。クラシック音楽家の家庭に育ち、ヴァイオリニストとしてさまざまなアーティストとの共演を重ねる一方、エレクトロニック・アクトKrazy Electronsでの活動などを通じて音楽制作の技術を身につけ、次第に作曲・プロデュース、そして映像作品の劇伴へと活動の幅を広げていった。彼の特徴は、ヴァイオリンを軸とした音楽的バックグラウンドを持ちながら、インド古典音楽や各地のフォーク・ミュージック、エレクトロニック、アンビエントなどを柔軟に行き来する作曲スタイルにある。近年は「ミルザープル 〜抗争の街〜」や「バンドワーレ 〜ミュージック・ピープル〜」、「ティハールの看守」といった、OTTシリーズなど数多くの映像作品に参加し、「ラーク」ではインド古典音楽と1980年代の映画音楽を意識したサウンド、『ASI Babita Singh Reporting』では地域のフォーク・ミュージックに着想を得た音楽を構築するなど、作品ごとに異なる音楽的アプローチを追求している。


