
話題の人!グジャラートから頭角を現した新世代女性ラッパー、Dラーシ(D RAASHI)
インドのヒップホップ・シーンで、2026年に急速に存在感を高めた女性ラッパーのひとりがDラーシ(D RAASHI)だ。
グジャラートを自身のアイデンティティとして打ち出しながら、ヒンディー語、英語、グジャラート語などを行き来するラップを展開。ラフタール(Raftaar)とKR$NAによるラップ・リアリティ番組「レガシー」への出演をきっかけに、DHH(デシ・ヒップホップ)のリスナーから広く知られる存在となった。
ただし、彼女は「レガシー」から突然現れたラッパーではない。番組以前から音源への参加歴があり、2024年にはジャジー・ナーヌー(Jazzy Nanu)のアルバム『Healing Frequency』収録曲「Hath Var」にフィーチャリングで参加しているが、その名前を一気に広めたのが、「レガシー」だった。
番組で披露した「Charo Kone Chitt」は、Dラーシというラッパーのキャラクターを理解するうえで重要な一曲だ。高速フロウや言葉遊びを盛り込みながら、自分らしく生きる女性に向けられる周囲の偏見や干渉に反発。「音楽ではなく勉強をしろ」と言われた経験や、服装について親戚から母親に告げ口されるといった経験までリリックに落とし込み、社会から求められる「女性らしさ」への抵抗を表現した。
こうしたテーマは「Black Sheep」でさらに個人的なものとなる。同曲では、22歳で結婚することを当然視されるような環境や、女性が自分自身で人生の決断を下すことの難しさ、母親が抑圧される姿を見て育った経験などを題材にしている。そのうえで、家族の中の「Black Sheep=異端児」であることを否定的に捉えるのではなく、自ら選んだ生き方の象徴として引き受けていく。単純なセルフボーストだけではなく、自身の経験を女性の自己決定というテーマへ結び付けている点が、彼女のリリックの特徴のひとつだ。
一方、「レガシー」ではバトルMCとしての能力も披露した。ケネス(KNSS)との直接対決では、同じ頭文字の単語を連続させるアリタレーションを多用しながら、相手を「cardboard king」と切り捨てるなど、テクニカルなワードプレイを展開。自身の経験を語るパーソナルな楽曲と、相手を言葉で攻撃するバトル・ラップという二つの側面を見せた。
さらに彼女を特徴づけるのが、グジャラートのローカル・アイデンティティである。「Mara Seher Ma」ではガルバ、凧揚げ、ジャレビ、ファフダといった土地の文化を盛り込みながら、自らの街へリスナーを招き入れるような楽曲を制作。後にはクシTDT(Khushi TDT)を迎えた「Sheher Ma」へと発展し、グジャラート色の強いDラーシと、ハリヤーナー色を持つクシという異なる地域性を一曲の中で交差させた。
さらには「Blue Label」なども発表。番組を通して、パーソナルなストーリーテリングからバトル、地元をレペゼンするリージョナル・ラップまで幅広いスタイルを披露。2026年9月には「Sheher Ma」のスタジオ版もLegacy LLC/Mass Appealから正式リリースされるなど、番組出演を音源へとつなげている。
そして番組終了後、Dラーシの名前を再びDHHコミュニティで浮上させ、新たな視点が生まれたのが、MTV「ハッスル」シーズン5でスクワッド・ボスを務めるアグジー(Agsy)をめぐる一連のビーフだった。
「ハッスル」シーズン5でアグジーが披露したラインが、ライバル番組「レガシー」に出演していた女性MCたちへのショットではないかと受け取られ、シャイアOG(Shia OG)らが反応。Dラーシもアグジーへの返答を行い、9月17日の時点ですでにDHH系チャンネルで「D Raashi Reply To Agsy」として取り上げられ、その後も「D Raashi vs Agsy」として話題が拡大した。
ただし、このビーフについてはSNS上の解釈やDHH系YouTubeチャンネルによる分析も多く、「アグジーが誰をどのラインで狙ったのか」について本人から詳細な説明がなされているわけではない。そのため、確定した事実とファンによるライン解析は分けて見る必要がある。
それでも興味深いのは、Dラーシが「レガシー」で一貫して見せてきた「自分を軽視する相手には言葉で応戦する」というキャラクターが、そのまま番組外のDHHシーンにも持ち込まれたことだろう。
女性ラッパーであること、グジャラート出身であること、家族や社会から求められた生き方から外れてきたこと――Dラーシは、それらを弱点として隠すのではなく、リリックの材料へと変換している。「レガシー」によって全国的な舞台へ姿を現したばかりではあるものの、地域性と女性としての経験、そしてバトルMC的な攻撃性を同時に持つ存在として、今後のインド女性ヒップホップを追ううえで注目すべき新世代MCのひとりである。


