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ボリウッドからデシ・フュージョンまで~インド要素を取り入れた欧米ポップ6選

欧米のポップ・ミュージックとインド音楽の関係は古い。1960年代にはビートルズのジョージ・ハリスンがシタールを導入し、「Norwegian Wood (This Bird Has Flown)」や「Within You Without You」などを通じて、インド古典音楽がロック・リスナーにも広く知られるようになった。

しかし2000年代以降になると、その関係はさらに複雑になっていく。ヒンディー映画音楽のサンプリング、英国の南アジア系アーティストによるデシ・フュージョン、インド的なリズムや楽器の導入、さらにはボリウッドを意識したダンスやミュージックビデオまで、「インド」の取り入れ方そのものが多様化していった。

今回は、そんなインド要素を大胆に取り入れた欧米ポップの代表曲を6曲紹介したい。

Britney Spears feat. Madonna「Me Against the Music (Rishi Rich’s Desi Kulcha Remix)」(2003)

ブリトニー・スピアーズ(Britney Spears)とマドンナ(Madonna)という二大ポップスターが共演した「Me Against the Music」。その公式リミックスのひとつとして制作されたのが「Rishi Rich’s Desi Kulcha Remix」だ。

手掛けたリシ・リッチ(Rishi Rich)は、2000年代の英国におけるデシ・フュージョンを語るうえで欠かせないプロデューサー。R&Bやヒップホップとパンジャブ音楽、バングラなどを融合し、ジャギーD(Juggy D)やジェイ・ショーン(Jay Sean)らとともに新しい英国南アジア系ポップの流れを作り出した。

このリミックスが興味深いのは、欧米のプロデューサーがインド音楽を「エキゾチックな素材」として引用するのではなく、南アジア系のクリエイター自身が世界的ポップスターの楽曲を「Desi」へと作り替えていることだ。2000年代にデシ・カルチャーが欧米メインストリームへ進出していったことを象徴する一曲でもある。

The Black Eyed Peas「Don’t Phunk with My Heart」(2005)

ブラック・アイド・ピーズ(The Black Eyed Peas)が2005年に発表した大ヒット曲。耳に残るオリエンタルなフレーズには、1970年代のヒンディー映画音楽が使われている。

中心となっているのは、カリヤンジ=アナンジ(Kalyanji–Anandji)が音楽を手掛け、アシャ・ボスレ(Asha Bhosle)が歌った『Apradh』(1972)の「Ae Naujawan Hai Sab Kuchh Yahan」と、『Don』(1978)の「Yeh Mera Dil Yaar Ka Diwana」。

つまり、漠然とした「インド風」の音を作ったのではなく、1970年代ボリウッドにおけるファンク、サイケデリック、キャバレー音楽の遺産を2000年代のヒップホップ/ポップへ移植している。

当時のアメリカでは、ヒンディー映画音楽をサンプリングするヒップホップやR&Bが次々と登場していた。Truth Hurts「Addictive」などと並び、「Don’t Phunk with My Heart」はその流れが世界的ポップ・ヒットへ到達した代表例といえるだろう。

Selena Gomez「Come & Get It」(2013)

セレーナ・ゴメス(Selena Gomez)が、それまでのティーン・ポップのイメージから一歩踏み出した転換点のひとつが「Come & Get It」だ。

スターゲイト(Stargate)がプロデュースした楽曲には、インド/南アジアを連想させるパーカッションやヴォーカル・フレーズが取り入れられ、R&Bをベースとしながら、一聴して分かる独特のエキゾチックなサウンドを作り出している。

さらに2013年のMTV Movie AwardsやBillboard Music Awardsなどのパフォーマンスでは、ボリウッドを意識した振付や衣装も導入された。音楽だけではなく、ダンスやビジュアルを含めてインド的イメージをポップ・スターのパフォーマンスへ持ち込んだ作品として、2010年代を象徴する一曲だ。

Iggy Azalea「Bounce」(2013)

同じ2013年に登場したのが、オーストラリア出身のラッパー、イギー・アゼリア(Iggy Azalea)の「Bounce」。

楽曲にはインドを想起させるパーカッションや音色が盛り込まれているが、さらに強烈なのがミュージックビデオだ。撮影はインドのムンバイで行われ、イギーはサリーをまとい、インドのダンサーたちと踊る。象や結婚式など、インドを連想させるイメージも次々と登場する。

「Come & Get It」と「Bounce」が同じ2013年に発表されたことも興味深い。2000年代にヒップホップやR&Bで盛んだったインド音楽の引用が、この頃にはサウンドだけでなく、ファッション、ダンス、映像を包括したポップ・カルチャーの表現へと広がっていたことが分かる。

Major Lazer & DJ Snake feat. MØ「Lean On」(2015)

メジャー・レイザー(Major Lazer)とDJスネイク(DJ Snake)がMØを迎え、世界的大ヒットとなった「Lean On」。

注意したいのは、この曲自体がインド映画音楽をサンプリングした作品というわけではないことだ。「Lean On」におけるインド要素を決定づけているのは、むしろミュージックビデオである。

映像はインドで撮影され、宮殿を思わせるロケーション、衣装、ダンスなどにインド文化の影響が色濃く表れている。一方、音楽はEDM、ダンスホール、エレクトロニック・ポップなどを国境横断的に組み合わせたものだ。

その意味で「Lean On」は、2010年代に台頭した「グローバル・ポップ」を象徴する作品でもある。欧米のポップスが特定地域の音楽を単純にサンプリングする段階から、世界各地の音楽や映像文化を横断する時代へ移行したことを示している。

Coldplay「Hymn for the Weekend」(2016)

コールドプレイ(Coldplay)がビヨンセ(Beyoncé)を迎えた「Hymn for the Weekend」も、2010年代の欧米ポップとインドの関係を語る際に外せない。

特に印象的なのが、インドで撮影されたミュージックビデオだ。街の風景や映画館、色彩豊かな祝祭などが登場し、さらにボリウッド女優ソーナム・カプール(Sonam Kapoor)が出演。インド映画文化そのものを意識した豪華な映像に仕上げられている。

一方で「Lean On」と同様、インド映画音楽を直接サンプリングした曲として分類するのは適切ではない。むしろサウンド、映像、スター文化を含め、欧米の巨大なポップ・プロダクションが「インド」というイメージをどう利用したのかを考えるうえで興味深い作品だ。

「インド音楽を使う」から「インドと一緒に作る」時代へ

この6曲を年代順に追うだけでも、欧米ポップにおけるインドの位置づけが変化してきたことが分かる。

2003年の「Me Against the Music」では、リシ・リッチという英国南アジア系プロデューサーがデシ・サウンドを世界的ポップスターの楽曲へ持ち込んだ。2005年の「Don’t Phunk with My Heart」では、70年代のヒンディー映画音楽そのものがサンプリングされる。

そして2013年の「Come & Get It」と「Bounce」になると、インド要素はサウンドだけでなく衣装やダンス、ミュージックビデオまで拡大。2015年の「Lean On」、2016年の「Hymn for the Weekend」では、インドそのものが世界的ポップ作品の巨大な舞台となった。

もちろん、その過程では「インド文化をエキゾチックな記号として消費しているのではないか」という文化的盗用をめぐる議論も起きている。一方で現在は、欧米側がインド音楽を一方的に引用するだけではない。インドや南アジア系のアーティスト、プロデューサーが世界のメインストリームへ直接進出し、欧米スターと対等にコラボレーションする機会も増えている。

「インドっぽい音」をアクセントとして加える時代から、インド/南アジアのクリエイター自身がグローバル・ポップを作る時代へ。この6曲は、その変化を振り返るための興味深い定点観測にもなっている。

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