映画・ドラマ短評『Theera Kadhal』(2023)
タミル語リメイク版『グレート・インディアン・キッチン』で主演を務めたアイシュワリヤー・ラジェシュ がこの役を演じるというのは、考え深いものがある。
出張先で偶然再会したかつての恋人ゴータム(ゴードンと聞こえるけど…..)とアラニア。しかし互いにパートナーがいる。
ゴータムは娘にも恵まれ、幸せな家庭を築いているが、恋人ではなく母となった妻に違和感を感じている。その一方でアラニアは、傲慢でDV気質の夫に嫌気がさしていた。
ゴータムは育児や家庭という日常生活から離れたこともあって、アニラアにアプローチし始め、少しの間だけ昔に戻ったふたり。
恋人同士のような時間と出張は終わり、現実に戻される。
そして出張から戻ったゴータムは、もうアラニアに会わないと心に決め、今まで以上に妻と娘に向き合おうとするが、アラニアには酷い現実が待ち受けていた。
こういった設定の不倫劇は日本にも多くあるし、世界中に共通性を感じるものの、今作が描いているのは、男の親切やちょっとした下心が時にに想像を絶する悲しみを与えてしまうということだ。
だからこそ、この作品はここからが本題!!
アラニアはDV男から逃げ出したこと、そのことで両親とも険悪な状態になったことで行き場がなく、優しくしてくれたゴータムに頼ってくるが、ゴータムは妻に知られては困るため、拒絶し続けた結果…….
向かいの家に引っ越してくるという、ストーカーのようなサスペンス展開に発展していくのだが、そもそもアプローチをかけたのは、ゴータムの方だっただのと、アラニアの過酷な事情もわかるだけに、この状況に陥ったのが結果として良かったとも言えないし、かと言ってDV夫に耐え続けることが良かったとも言えないだけに、かなり複雑な気持ちにさせられる。
また、シヴァダ・ナイール演じるゴータムの妻ヴァンダナの視点も交じり合ったりと、どう解決することが正解なのかわからなくなってくる。
昼ドラ好きとしては、そこをもっと泥沼化させた方が不倫劇としては、より一層おもしろくなるとは思うのだが、あえてなのか、狂気的には振り切っておらず、あくまでアラニアの視点も大切にしていることから、常に異常な行動の中に悲しみが透けて見えるのが辛い。
男の優しさやちょっとした下心がときに悲劇をもたらすということを描きながら、それがあったからこそ、先に進むきっかけになったのも事実なだけに、人間同士が関わることの難しさと大切さが交互に押し寄せてくるような作品だ。
『グレイト・インディアン・キッチン』のときもそう思ったが、本当にアイシュワリヤーの「何かを訴えかける」目の演技は見事。
今作の監督を務めるローヒン・ヴェンカテサンは、ロマティック・スリラーの『Adhe Kangal』やタマンナー主演のコメディホラー『Petromax』など、ジャンルミックスが得意ということもあって、今作も絶妙なラインのジャンルに仕上げてきている。