映画・ドラマ短評:『ジェイラー』(2023)

ベンガル語映画には、”スーパースター”ジートというアクション俳優がいるし、他の地方にも同じ称号を持つ俳優は何人か存在しているが、”スーパースター”という称号が東西南北に渡って共通認識なのはラジニカーントだけ。

まず今作は、マサラ上映で騒ぎながら観るような類の作品ではない。バイオレンス描写が多く、まるでリーアム・ニーソンやメル・ギブソン案件のような作品となっているからだ。

ラジニカーント作品では、お馴染みのキメ顔も度々炸裂するが、基本的にバイオレンス映画。

それもそのはず、監督のネルソン・ディリープクマールは、タミル語映画界において、デビュー作の『Kolamavu Kokila』(2018)から、一貫してバイオレンスとシニカルな笑いを貫いている監督である。同作は、貧困と母の高額な医療費を解決するため、麻薬密輸ビジネスに手を出してしまう主人公コキラの負の連鎖を描いた、ナヤンターラ主演のブラック・コメディ。続いて、2021年の『Docter』や2022年の『Beast』も同じくブラック・コメディであった。

念願のラジニカーント主演作であっても、ネルソンの作家性は全く劣っておらず、ラジニカーントの新たな一面を引き出してくれた。

精神年齢30代のイケイケおやじが歌って、踊って、大暴れする作品はいくつかあるが、今作においてのラジニカーントは、静かな演技で、渋さを際立たせており、続いて公開された『Vettaiyan』(2024)でも新たな一面を見せていた。御年74歳のラジニカーントだが、まだまだ役者としての可能性を感じさせてくれる。

ちなみに今作の設定は、元ティハール刑務所の看守。ティハール刑務所といえば、2019年にスニル・グプタとサネトラ・チョードリーによるノンフィクション小説「Black Warrant: Confessions of a Tihar Jailer」が話題となり、今年の1月にNetflixでドラマ化された「ティハールの看守」などの舞台にもなっている刑務所だ。ほかにもナショナル・ジオグラフィックで「潜入!インド最大の刑務所」(2014)としてドキュメンタリー化されているように、汚職や薬物、ギャング抗争などが横行していて、かなり治安の悪い刑務所として知られている。

そんなところで看守をしていたのだから、かなり肝の据わったキャラクターで、汚職に染まった、ほぼブラックなグレーであることがわかるし、サイコパスのような側面もある。看守時代は、少ししか描かれいないため、まだまだ深堀できそうなキャラクター造形だ。

そして音楽は、タミル語映画音楽界ではお馴染みのアニルド・ラヴィチャンダルが担当している。日本で上映された作品でいうと、シャー・ルク・カーンの『JAWAN/ジャワーン』(2023)もアニルドによるものだし、3月28日から公開されるNTR Jr.主演作『デーヴァラ』の音楽も手掛けている。

なかでもタマンナーのダンスシーンで使用されている、シルパ・ラオの「Kaavaalaa」は、2023年を代表する1曲となった。ちなみに『花嫁はどこへ?』(2024)のインタビューの際に、キラン・ラオ監督と個人的にインド音楽プレイリストを交換することになり、キランのおすすめするインド音楽プレイリストの中にも入っていた、若手シンガーDhee(ディー)による「Jujubee」など、魅力的な楽曲が多い。

しかし、ほとんどはサウンドトラック処理されていて、ダンスシーンといえるものは、「Kaavaalaa」のみ。そんな部分からも、娯楽性よりもドラマ性を重視していることがわかる。

すでに2作目の製作が進められているのだが、今作のなかにシヴァラージクマールやジャッキー・シュロフといったビッグネームがカメオ出演していることから、それらのキャラクターとの本格共闘も期待したいところ。ネルソンはインド版『エクスペンダブルズ』でも始めようとしているのだろうか??

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