
ディスクガイド『Tarzan』OST (1985)
『Disco Dancer』(1982)でインド映画におけるディスコ・サウンドの象徴的存在となったバッピ・ラヒリ(Bappi Lahiri)が、今度は「ターザン」というジャングル・アドベンチャーを、徹底して80年代的なダンス・ミュージックへ変換した一枚。ジャケットだけを見れば、ゾウ、ライオン、トラ、滝、半裸のターザンという古典的な密林冒険映画そのものだが、レコードに針を落とした瞬間に広がるのは、むしろシンセサイザーと電子ドラムが支配する都会的なディスコ空間である。この映像的な「ジャングル」と音楽的な「ディスコ」の猛烈なミスマッチこそ、本作最大の魅力といえるだろう。
このサントラ盤で中心となるのが、バッピとアリーシャ・チナーイー(Alisha Chinai)による「Jee Le Le Jee Le Le」。反復される掛け声、強烈なシンセベース、電子的なリズムによって押し切るダンス・ナンバーで、映画音楽というより当時のディスコ・フロアを意識したような音像を持つ。バッピ自身のヴォーカルと、まだキャリア初期だったアリーシャの声が交差することで、いかにも80年代らしい派手さと人工的な質感が生まれている。
さらに印象的なのが「Tarzan My Tarzan」。アリーシャのヴォーカルを前面に押し出した官能的なラブソングで、「ターザン」というキャラクターそのものを英語のフックとして反復する。英語とヒンディー語を行き来する歌詞、シンセを多用したプロダクション、甘く息を含んだヴォーカルが組み合わさり、ジャングルの野性味よりも80年代のエキゾチックなポップ・ファンタジーを作り出している。アルバムには7分を超える長尺で収録されているのも特徴だ。
アルバム全体では「Do Re Me」「Mere Saath Gaoge」「Tamasha Banke Aaye Hain」なども収録。楽曲によってディスコ、ロマンス、ショー音楽的な要素を使い分けながらも、全編を貫くのはバッピ特有の過剰なまでのキャッチーさだ。メロディを複雑にするのではなく、短いフレーズ、掛け声、反復するリズムを組み合わせ、数秒で耳に残る音楽へ仕立てている。主要曲にはアリーシャのほか、ウッタラ・ケルカル、ヴィジャイ・ベネディクトらが参加している。
そして本作は、アリーシャの初期キャリアを考えるうえでも面白い。のちにI-POPを代表する女性シンガーのひとりとなり、「Made in India」で巨大な成功を収める彼女が、1985年の時点ですでにバッピ・ラヒリの電子的な映画音楽と強く結びついていた。「Jile Le」と「Tarzan My Tarzan」は、ともに彼女の1985年の映画歌唱として記録されている。
『Tarzan』は、伝統的なインド音楽を前面に出したサウンドトラックではない。むしろ西洋のディスコ、シンセポップ、電子音楽を大胆に吸収し、それをヒンディー映画特有の歌と踊りのフォーマットへねじ込んだ、バッピの80年代サウンドを象徴する一作だ。密林を舞台にしたターザン映画でありながら、耳から入ってくるのはネオン輝くディスコ。その大胆なアンバランスさまで含めて、80年代ボリウッドの猥雑さと自由さが凝縮されたサウンドトラックである。


