
アイキー・ベリー(Iykki Berry)日本独占インタビュー Part2
Q6)以前、東京でライブを行われたことがありますが、日本からクリエイティブなインスピレーションを受けたことはありますか?
日本には非常に独特な文化的アイデンティティがあり、伝統と現代性が共存しているところに魅力を感じています。日本ならではの美意識や豊かな文化的歴史、そして現代の音楽やストリートカルチャーには、クリエイティブな視点から探求できるものがたくさんあります。
アーティストとして、私は人々がファッションやアート、音楽、日常生活を通じて、どのように自分自身を表現しているのかを観察することに、常に興味を持っています。また、ヒップホップが本来の精神を保ちながら、それぞれの文化のなかでどのように独自の進化を遂げていくのかを知ることも大好きです。
外国を訪れるような経験は、たとえそれが特定の歌詞やMVに直接反映されなかったとしても、自分自身の視野を広げてくれるものだと思います。
今後のプロジェクトでは、タミル文化と日本文化のつながりを、さらに深く探求してみたいですね。どちらにも独自の歴史や言語、芸術的伝統がありますし、両者を融合させることで、これまでにない新しいものを生み出せる可能性があると信じています。
Q7)ライブの際ですが、日本の観客はインドやほかの国々の観客と比較して、どのような印象を持ちましたか?
どの国の観客にも、それぞれ独自のエネルギーがありますが、私にとって日本のリスナーは特別な存在です。
私が初めて英語で発表した楽曲「Jealousy」は、日本と韓国で多くのストリーミング再生を記録しました。日本のスーパーマーケットでこの曲が流れている様子を撮影した動画を送ってくれた人までいたんです。南インド出身のインディペンデント・アーティストである私にとって、それは本当に感慨深い出来事でした。
現在も日本は、この曲のストリーミング再生数や動画視聴数において際立った存在であり、私にとって特別な国であり続けています。
タミル語圏のリスナーは、言語や文化を通じて私の音楽とつながってくれます。一方、海外のリスナーは、ビートやエネルギー、アティテュード、そして感情を通じてつながってくれるんです。
それこそが音楽の持つ力だと思います。音楽に込められた意味を感じ取るために、必ずしも言葉を理解する必要はありません。
海外でパフォーマンスすることは、異なる文化の間につながりを築くことでもあります。これからもっと多くの日本のリスナーに、タミル・ヒップホップと、そこに込められた私たちの物語を届けていきたいですね。
Q8)「NEXA Music」シーズン3への参加は、ご自身にどのような影響を与えましたか?
こうしたプラットフォームは、アーティストが普段の活動範囲を超えて、より多くの人々に音楽を届ける機会を与えてくれるという意味で、とても重要だと思います。
特にインディペンデント・アーティストにとって、注目される機会を得ることは大きな意味を持ちます。従来の枠組みに収まらないサウンドやアイデンティティを築こうとしているアーティストなら、なおさらです。
また、音楽業界は常に進化し続けています。インド音楽を世界に届けたいのであれば、私たちはまず、自分たちの国が持つ多様性を認識する必要があると思います。言語もサウンドも音楽的伝統も、インドには実にさまざまなものが存在しています。
英語による音楽は、世界とつながるための手段のひとつではありますが、決してそれだけが、インドのアーティストが海外のリスナーとつながる方法ではありません。
私にとって最大の目標は、タミル・ヒップホップを世界的な舞台へと押し上げることです。グラミー賞やアカデミー賞のような舞台も、その目標に含まれています。
タミル語という言語が、現代的で力強く、実験的であり、世界に通用する表現を生み出せることを、多くの人に知ってもらいたいんです。
これからも、独自の個性や表現を持つアーティストたちに、新たなチャンスを与えてくれるプラットフォームが増えていくことを願っています。
Q9)今後リリース予定の楽曲やコラボレーション、プロジェクトについて教えてください。
私は常に新しいサウンドや、音楽を通じたさまざまな自己表現の方法を探求しています。
最近リリースした「KulaNagini」は、音楽と力強いビジュアル、そして文化的な要素を融合させた作品です。この曲の特に注目してほしいところは、11人を超えるアーティストがひとつの楽曲に参加し、それぞれの歌声を重ねていることです。
多くのアーティストがひとつのビジョンのもとに集まり、共同で音楽を作り上げるという体験は、私にとって非常に刺激的なものでした。
また、私は「13 Club Cypher」という活動を通じて、ヒップホップ・コミュニティを育てていくことにも情熱を注いでいます。これは、さまざまなアーティストが集まり、それぞれの才能やエネルギー、ヒップホップへの愛情を共有するためのプロジェクトです。
以前、チェンナイで60人以上のラッパーが参加する大規模なサイファーを開催しました。そして現在は、このコンセプトを海外にも広げていきたいと考えています。国境を越えてアーティスト同士が交流できる場を作りたいんです。東京も、ぜひ実現させてみたい場所のひとつですね。
私の野心は、単に自分の楽曲をリリースすることだけにとどまりません。アーティストのためのプラットフォームを作り、異なる文化の間でコラボレーションを促進し、これまでタミル・ヒップホップに触れたことのない人々にも、その魅力を届けていきたいんです。
まだまだ探求したい物語やサウンドがたくさんありますし、これからどんなことが待っているのか、とても楽しみにしています。
Q10)タミル・ヒップホップを聴いたことのない日本のリスナーに、ご自身の楽曲を推薦するとしたら、どの曲を選びますか?
私がおすすめしたいのは、「Ithihasam」「Block」「Thunder」の3曲です。この3曲を聴いてもらえれば、私の音楽的なアイデンティティが持つ、さまざまな側面を感じてもらえると思います。
まず「Ithihasam」では、単なるビートやラップのパフォーマンスを超えたものを体験してほしいですね。タミル語には非常に豊かな文学的伝統があります。私は、そうした文化的な奥深さや歴史、力強いイメージを、現代のヒップホップに取り入れることが大好きなんです。
一方、「Block」は、タミル・ヒップホップが持つエネルギーやアティテュード、現代的なサウンドを表現した楽曲で、私の音楽性のまた違った一面を感じてもらえると思います。
そして英語で歌った「Thunder」は、言葉の壁を越えて、私のインターナショナルなサウンドに触れてもらえる作品です。
初めて私の音楽を聴く人には、この3曲を通じて、私の表現の幅広さやタミル語という言語、楽曲に込められたイメージ、そして歌詞の背景にある思想に興味を持ってもらえたらうれしいですね。
音楽のエネルギーや感情を味わうために、必ずしもタミル語を理解する必要はありません。でも、私の音楽を聴いたことがきっかけとなって、歌詞にどんな意味が込められているのかを知りたいと思ってもらえたら、それ以上にうれしいことはありません。
私の目標は、単に世界中の人々にタミル音楽を聴いてもらうことではありません。タミル音楽が世界の音楽シーンで正当な地位を占めるべき存在なのだと、世界に認識してもらうことです。
自分たちの文化に深く根ざしながら、同時に世界中の人々の心に響く音楽を生み出すことは、十分に可能だと思っています。
もし日本の誰かが私の音楽をきっかけにタミル・ヒップホップを知り、さらにほかのアーティストや、私たちの言語、文化についても興味を持ってくれたとしたら、それは私にとって、本当に意味のあるつながりを生み出せたということになるんです。

【アイキー・ベリー / Iykki Berry】
インド南部タミル・ナードゥ州タンジャーヴール出身のラッパー、シンガー、ソングライター。本名はアイキャ・カマラージ(Iykya Kamaraj)。医師としての資格を持ち、美容医療の分野でも活動するという異色の経歴を持つ、タミル語ヒップホップ・シーンを代表する女性アーティストのひとり。幼少期から音楽に親しみ、歌手のラミヤ・NSK(Ramya NSK)に師事した後、世界的な映画音楽作曲家A.R.ラフマーンが設立した音楽教育機関KM Music Conservatoryで専門的な音楽教育を受けた。2016年頃から本格的に音楽活動を開始し、当初はソングライティングを中心に活動。その後、ヒップホップを自身の表現手段として取り入れ、タミル語と英語を駆使した独自のスタイルを確立していった。2017年には、タミル・ナードゥ州の伝統行事ジャッリカットゥを支持する運動に関連した楽曲「Pride of Thamizhan」を発表。2019年の「Enna Paathathum」で注目を集め、2020年には英語楽曲を収録したアルバム『Mesense 1991』をリリースした。2021年には、俳優カマル・ハーサンが司会を務める人気リアリティ番組『Bigg Boss Tamil』シーズン5に出演。音楽ファン以外にもその存在を広く知られるようになった。その後も、デイヴ・メジャー(Dev Major)との「Yela」、マラヤーラム語ラッパーのティルマリ(ThirumaLi)を迎えた「Rani」、タミル民謡歌手チンナー・ポンヌー(Chinna Ponnu)との「Thalayaatti Bommai」などを発表。ヒップホップを軸にポップス、ファンク、ダンスホール、エレクトロニック・ミュージックなどを横断しながら、南インドの伝統的な音楽文化と現代的なサウンドを融合させてきた。2024年には、タミル文化への誇りや逆境に立ち向かう力をテーマにした「Ithihasam」を発表。男性中心の傾向が強かったヒップホップ・シーンにおいて、女性アーティストとして独自の存在感を築いている。また、音楽活動と並行して医療支援や社会貢献活動にも取り組んできた。タミル語圏に根ざした文化的アイデンティティを持ちながら、国際的な活動の幅も広げている。


