
『ミズ・マーベル』にも楽曲が使用されたエヴァ・Bとアグジーがコラボ
パキスタン・ヒップホップを代表する女性ラッパーのひとり、エヴァ・B(Eva B)が、インド(デシ)・ヒップホップのフィメールラッパー、アグジー(Agsy)「Bachke (feat. AGSY)」をリリース。
Eva Bは、パキスタン・カラチのリヤリ地区出身のバローチ系ラッパー。EminemやQueen Latifahらに刺激を受け、2014年頃から独学でラップを始めた。女性がラップをすることへの家族からの反対によって一時活動を中断したものの、2019年に「Gully Girl」で本格的に復帰。ウルドゥー語とバローチー語を駆使しながら、女性が置かれている状況や格差、リヤリの社会問題など、自身を取り巻く現実をリリックへと変えてきた。
大きな転機となったのが、2022年の「Coke Studio Pakistan」シーズン14。Kaifi Khalil、Abdul Wahab Bugtiとの「Kana Yaari」が大ヒットし、公開3日目にはYouTubeで320万再生を記録。その後、Gingger Shankarとの「Rozi」がマーベル・ドラマ『ミズ・マーベル』に使用されたことで、パキスタン国外にも名前が知られるようになった。
ニカブで顔を覆ったビジュアルもEva Bを象徴するものだが、それ以上に重要なのが、リヤリ/バローチというローカルなアイデンティティをヒップホップの中で発信し続けていることだ。かつてギャング抗争や貧困で知られたリヤリは、同時に独自のヒップホップ・シーンを育ててきた土地でもある。Eva B自身も、正式な音楽教育を受けたのではなく、自分たちで音楽を学んできたからこそリヤリを積極的に表現していると語っている。
そんな彼女の新曲「Bachke」で興味深いのが、フィーチャリングにアグジーを迎えたことだ。つまり本作は、単なる女性ラッパー同士の共演にとどまらず、パキスタンとインドの女性ヒップホップをつなぐ越境コラボでもある。
とりわけ両国のヒップホップでは男性ラッパーの存在感が依然として大きい。その中で、パキスタン側からEva B、インド側からアグジーという、それぞれ異なる環境でキャリアを切り開いてきた女性MCがマイクを交わす構図そのものに意味がある。「Bachke」はEva Bがこれまで打ち出してきた女性が自ら声を上げ、自分の居場所を獲得するという姿勢を、国境を越えたコラボレーションへ拡張した一曲として捉えることができるだろう。


