
I-POPヒストリー(第1回):ナジア・ハッサン&アリーシャ・チナーイー
インド人であることの魂と尊厳を歌った大ヒット曲で、フィメールラッパーのラジャ・クマリ(Raja Kumari)もカヴァーした「Made in India」が収録された同名アルバムが世界的なヒットとなった、アリーシャ・チナーイー(Alisha Chinai)は間違いなく「インド・ポップの女王」ではあるのだが、元祖というと、少々微妙なところがある。
調べてみると、1990年代以降から「インド・ポップ」「インディ・ポップ」というものが確立されて、それ以前は無かったかのような記事がいくつか出てくるが、それは全くの間違いで、90年代以前から「インド・ポップ」というものは存在している。
ボリウッドで最初のトーキー映画は1931年の『Alam Ara』、南でも同時期に制作された『Kalidas』から、古典のなかにも、現代的なポップ色を含めた曲というのは、R.D.バーマンの父S.D.バーマンの頃からもそうであるし、アシャ・ボスレ(Asha Bhosle)やラタ・マンゲシュカル(Lata Mangeshkar)の楽曲のなかにもポップ色が強いものはいくつかあった。
明確にポップソングとして確立されるものが出てくるようになったのは、70年代末期~80年代の間といえるだろう。
この頃、何があったかというと、インドやパキスタンでは、ディスコブームが起きていたのだ。
インドにおける80年代ディスコブームといえば、パキスタンのシンガー、ナジア・ハッサン(Nazia Hassan)が、インド系イギリス人のシンガーソングライター、ビドゥ(Biddu)作曲のもと、1981年にリリースしたアルバム「Disco Deewane」が世界的に大ヒットしたことが追い風となり、ボリウッドでは『Disco Dancer』(1982)、テルグでは『Disco King』(1984)が公開されるなど、楽曲のなかにもディスコが積極的に取り入れられるようになる。
ちなみにナジアの曲は、インドを中心に、今でも愛され、カヴァーされ続けている。
「Disco Deewane」は、1996年に姉弟ユニット、シャーン(Shaan) & サガーリカ(Sagarika)によってカヴァーされ、『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』(2012)では、「The Disco Song」として、スニディ・チャウハン(Sunidhi Chauhan)、ベニー・ダヤール(Benny Dayal)もカヴァーしているし、Netflixドラマ「ダッバー・カルテル」にも挿入歌として使用された、W.i.S.H.の「Boom Boom」は、ナジアのセカンドアルバムの同名リード曲のカヴァーである。
ジーナット・アマン主演映画『Qurbani』(1980)の作中曲「Aap Jaisa Koi」が、ボリウッドで初めてのディスコを持ち込んだ曲とされているが、「Aap Jaisa Koi」は、ナジアが15才のときのデビュー曲である。
そして、「Disco Deewane」のヒットが大きな後押しとなって、映画音楽にディスコ旋風が巻き起こり、そこにアリーシャが『Love Love Love』(1989)や『Dance Dance』(1987)など、作中歌のディスコソングを華麗に歌い上げ、知名度を上げていった。とくに『Dance Dance』の作中曲「Zooby Zooby」は、ディスコソングのなかでも名曲として知られており、『Dhokha』(2022)や『シャバーナーと呼ばれる女』(2017)の作中曲としてもカヴァーされている。
それと並行して「Aah… Alisha!」や「Kamasutra」といったオリジナルアルバムをリリースしながら地位を築き、1995年「Made in India」で爆発的なヒットをとばしたことが、「インド・ポップの女王」の基盤となっていったのだから、本当の意味で「インド・ポップの女王」はナジアといえるだろう。
ちなみに「Made in India」は、もともとビドゥがナジアのために作曲したものであるが、ナジアはパキスタン系ということもあり、インド人であることを強く主張する曲を歌うことには抵抗があったことから辞退し、それがアリーシャに周ってきたという経緯がある。
インドにおけるディスコの歴史と、ポップスの歴史は接続されているものなのだが、別々に扱うことが多いため、どうしても「インド・ポップの女王」はアリーシャという印象になってしまっているのが、間違いが伝わってしまっている原因だろう。
とはいえ、アリーシャも間違いなく、インド・ポップ、インディ・ポップの基礎を作ったひとりである。
ただ、冒頭に書いた通り、アリーシャを軸に、インド・ポップというものを語り始めることは間違いだといえるのだ。
次回は、アリーシャと同時期、それ以降のポップシンガー~初のガールズグループ「Viva!」までを紹介する予定だが、ディスコはディスコで、ジャンルとしては、さらに語るべきことが多いため、別の機会に解説したいと思う。

