
ラフタール(Raftaar)とKR$NAが仕掛ける新たな挑戦!ラップ・リアリティ番組『Legacy』が映し出すデシ・ヒップホップの現在!!
インドを代表するラッパーのラフタール(Raftaar)とクリシュナ(KR$NA)が、新たなラップ・リアリティ番組「Legacy(Legacy: The Next Voice of Indian Hip-Hop)」を始動させた。
番組はラフタールが共同設立したレーベル「Kalamkaar」が制作し、7月10日よりYouTubeチャンネルで配信されている。単なるオーディション番組ではなく、「本物のラッパーを育てる」ことを目的としたプロジェクトとして注目を集めている。
ラフタールは番組について、「ヒップホップは常にストリートの人々に声を与えてきた文化だ。「Legacy」では数字ではなく、スキルやオリジナリティ、ハングリー精神を評価したい」と語る。SNSのフォロワー数や再生回数がアーティストの価値を決める時代だからこそ、歌詞の表現力やフロウ、個性、そしてメンターとの交流を通じた成長を重視する姿勢を打ち出している。
KR$NAも「インドには才能がないのではなく、ヒップホップを本当に理解してくれる場所が少なかっただけだ」とコメント。「Legacy」は、新世代ラッパーにとって実力を証明する新たな登竜門になることを目指している。
この番組が誕生した背景には、インド・ヒップホップの急成長がある。2010年代半ばまでは、一部のアンダーグラウンドシーンに限られていたデシ・ヒップホップ(Desi Hip Hop)は、2019年公開の映画『ガリーボーイ』によって大きく注目されるようになった。同作はムンバイのストリートラッパー、ディヴァイン(DIVINE)と,ネイジー(Naezy)をモデルに制作され、ヒップホップを「若者文化」から「社会現象」へと押し上げた。その後、SpotifyやYouTubeなどストリーミングサービスの普及によって、デリー、ムンバイ、パンジャブ、ハリヤーナー、ベンガルールなど各地から新世代ラッパーが次々と登場し、インドのヒップホップは地域色豊かな音楽へと発展していった。
すでにインドにはMTV 「Hustle」という人気ラップ番組が存在し、多くのスターを輩出している。しかし、「Legacy」はテレビ局主導ではなく、現役トップラッパー自身が企画・運営する点が大きく異なる。つまり、「テレビがスターを作る」のではなく、「ラッパーが次世代ラッパーを育てる」という、よりコミュニティ主導のプロジェクトなのである。
6話と7話にはイッカ(Ikka)もゲスト出演を果たし、マフィア・ムンディールの元メンバーふたりがメンターとして次世代を育てようと姿には感動すらおぼえた。
また、「Legacy」は育成番組であると同時に、インドのヒップホップ文化を記録するアーカイブとしての役割も担っている。番組では参加者の人生や創作の背景、ステージに立つまでの過程にも焦点が当てられ、単なる勝ち負けではなく、「アーティストが生まれる瞬間」を描こうとしている。第1話でも「No covers. No shortcuts. Just bars(カバーなし、近道なし、ラップだけで勝負)」というメッセージが掲げられ、純粋なリリックとパフォーマンスを競う姿勢が強調されている。
ラフタールは現在のインド・ヒップホップを語る上で欠かせない存在だ。本名はディリン・ナイル。2000年代後半から活動を始め、ボリウッド作品への参加やヒット曲「Morni」「Dhakad」「Ghana Kasoota」などで幅広い人気を獲得した。一方で、Kalamkaarを通じて若手育成にも積極的に取り組み、近年はアーティストをプロデュースする立場としても影響力を強めている。
一方のKR$NAは、英語とヒンディー語を自在に操る技巧派ラッパーとして知られる。緻密なライムや高速フロウ、社会問題を盛り込んだリリックに定評があり、インドのリリカル・ラップを代表する存在だ。近年は日本のラッパーAwichとの国際コラボレーション「ASIAN STATE OF MIND」への参加や、米ヒップホップレーベルMass Appealとのプロジェクトなど、活動の幅を世界へ広げている。
さらに「Legacy」には、インドのオーディオブランドboAtもパートナーとして参加しており、企業がヒップホップ文化を支援する流れも生まれている。これは、ヒップホップがもはやニッチなジャンルではなく、インド音楽市場の中心的コンテンツへと成長したことを象徴している。
YouTube、Spotify、Instagramなどのデジタルプラットフォームによって、インドのラッパーはレコード会社や映画業界を経由せずに成功できる時代となった。しかしその一方で、再生回数やバズを重視する風潮が強まったことも事実である。「Legacy」は、そうした現状へのアンチテーゼとして、「数字ではなく実力を評価する」という価値観を提示している。
「Legacy」は新人発掘番組であると同時に、インド・ヒップホップが成熟期へと入ったことを示す象徴的なプロジェクトでもある。ストリートカルチャーとして始まったインドのラップは、映画や広告、世界的ブランドとのコラボレーションを経て、今や自ら次世代を育成する段階に到達した。ラフタールが語る「ヒップホップはストリートの声」という原点を守りながら、その文化を次世代へ継承していく。
「Legacy」というタイトルには、まさにその願いが込められているのだ。


