
ドラマ評:『バンディシュ・バンディット~インドからラブソングを~』シーズン1~2
「映画秘宝」の連載コラム「映画とカルチャー:インド編」より抜粋したものです。
Amazonプライムドラマ「バンディシュ・バンディット~インドからラブソングを~」は、2020年にファーストシーズンが配信されていたが、4年の時を経て、シーズン2が配信されることになり、日本でもシーズン1~2が同時配信された。実はシーズン1に関しては、日本語字幕なしでは配信されていたのだが、このタイミングで字幕版も配信開始された。
過去にも「フォー・モア・ショット・プリーズ!」のように、配信されていなかった作品が、新シーズンに合わせて一挙配信になることもあるだけに、「Poacher」や「モダン・ラブ(ムンバイ、チェンナイ、ハイデラバード)」などのように、まだ未配信の作品も諦めないで良さそうだ。
さて、本作の見所はというと、インドにおける古典と現代音楽の在り方を描いているという点だ。古典音楽を学ぶラーガーと、現代ポップシンガーのタマンナという、ふたりの主人公それぞれが、音楽を擬人化したようなキャラクター構造となっている。
そんなふたりが出会うことによって、新たなジャンルと視野が広がるという、まさにインド音楽における、古典と現代音楽のフュージョンを表しているのだ。
古典と現代音楽においては、現実社会としても互いに偏見がある。例えば古典は”古臭い、宗教じみている”など。逆に現代の場合は、”電子機器を使い過ぎ、歌声よりもヴィジュアル重視”といったもの。ロックやメタルを騒音と言う人がいたり、インドや音楽に限らず、新しいものを受け入れようとしない人々は現実にもいるわけで、社会に蔓延る”他者を理解し、新しいものを受け入れようとしない”者たち、概念と、どう向き合っていくかもテーマのひとつだ。
タマンナも始めは、ヤギの首を絞めているようだと言っていたように、古典音楽に対して偏見をもっていたが、それぞれの音楽に触れることで、新たなものを見出していく音楽の探求、音楽という名の旅。
ふたりは音楽によって引き寄せられ、音楽によって引き裂かれる。自分自身の音楽を探求するがゆえに、愛し合っていても気持ちに正直になることができないふたりが、どんな道を選ぶのかを見届けてもらいたい。
音楽を扱っているということもあり、全体的に楽曲数は多く、ミュージカルドラマとしての側面も強い。とくにシーズン2では、それぞれの音楽への想いを持って出場する、チーム対抗音楽バトルが描かれることから、シーズン1よりも音楽ジャンルの幅が広く、古典とロック、古典と90年代ポップスのフュージョンなど、見所、聴き所が満載でエンタメ要素は倍増されている。
タマンナのプレイバックシンガーが、シーズン1ではジョニタ・ガンディ(Jonita Gandhi)だったのに対して、シーズン2ではニキタ・ガンディ(Nikhita Gandhi)に変更になったことで、突然ハスキーヴォイスになっていることには、違和感があるかもしれないが、古典音楽ユニットのシャンカール・イーサーン・ロイ(Shankar Ehsaan Loy)によって基礎が固められ、そこに若手アーティストのジャリィや『そして、見失ったもの』(2023年)や『Gehraiyaan』(2022年)などの音楽も手掛けるなど、若者たちの繊細な心の揺らぎを捉えるのが得意な人気急上昇ユニットOAFF&サーヴェラーなどが参加していたりと、貴重なセッションの数々を見逃してもらいたくない。
ただ、今作に出演していた、インドドラマ界の名バイプレイヤー、リトゥラジ・シンとアミット・ミストリーが亡くなってしまったことは残念でならない…。