映画・ドラマ評 『マレガオンのスーパーボーイズ~夢は映画と共に~』(2025)

ファイザ・アフマド・カーンが撮ったドキュメンタリー映画『Supermen of Malegaon』が2012年に公開されると、インドだけではなくアメリカやイギリスなど、数々の映画賞で世界的に話題になった。同作はマハーラーシュトラ州 の小さな町マレガオンにおける映画産業”モリウッド”の始祖的な存在となった男たちの映画制作、とくにタイトルにもなっている「スーパーマン」のパロディ『Malegaon Ka Superman』(2009年)の制作過程に密着したドキュメンタリーである。

そんな『Supermen of Malegaon』にドラマ性を加え劇映画として制作されたのがAmazonプライムで4月25日から配信中の『マレガオンのスーパーボーイズ~夢は映画と共に~』。『ダハード~叫び~』(2023年)や『メイド・イン・ヘヴン~運命の出会い~』(2019年~)などを手掛けたリーマー・カーグティが監督を務めており、8月から配信予定の「エイリアン」初のドラマシリーズ『エイリアン:アース』でもメインキャラクターに抜擢された若手実力派俳優アダーシュ・ゴーラヴが主役のナシールを演じているのも注目すべき点だ。

ドキュメンタリー版はあくまで『Malegaon Ka Superman』のメイキングを軸として、その作品自体の奇抜さや都会の大衆向け映画産業とは違った進化を遂げた、地方の映画産業の可能性などに言及するものとなっていたのに対して、劇映画にしたことで、伝えきれなかったバックストーリーも描くことが可能に。例えばボリウッド映画を違法ダビングしたハラール用ビデオ(イスラム教徒のために性的なシーンをカットしたもの)をヒントに、バスター・キートンやチャップリン、ジャッキー・チェン、ブルース・リーなどの映画を切り張りしたリミックス映画を制作するようになったところからドラマチックに描いている。

そんなリミックス映画は警察に摘発されてしまうが、”だったら自分たちでリメイクしてしまえばいいじゃないか!”と思い立ったことで今度はインド映画の金字塔『炎』(1975年)のリメイクに着手することになり、これがまさかの大ヒット!!その後も『Shaan』(1980年)や『ラガーン』(2001年)といった名作映画を次々とリメイクというよりコピーしていったところから、ドキュメンタリーと同じく『Malegaon Ka Superman』を完成させるところまでを凝縮して描いている。

ドキュメンタリー版のテロップで2011年に『Malegaon Ka Superman』の主演のシャフィークが亡くなったことが書かれていたが、実は癌に倒れ、治療もできない状態のシャフィークのために最高の主役を演じさせようとしたことが制作のきっかけであることがわかるようになっている。シャフィークに起きた悲劇は、バラバラになっていた映画制作チームを再び結集させることになり、感動作として着地させている。

 違法なコピー映画を撮ることをドラマチックに描いてしまうことが良いのだろうか~とう疑問は終始付きまとうものの、インターネットも配信サービスも普及していなかった時代から、地方で、しかもお金もコネも無い若者たちが映画制作に挑んだ者たちがいたという記録としては貴重ではないだろうか。

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