映画・ドラマ評:『政党大会 陰謀のタイムループ』(2021)

インドでも多くのタイムループものが制作されている。ドイツ映画『ラン・ローラ・ラン』(1998)をリメイクしたNetflix映画『エンドレス・ルーーープ』(2022)や『Jango』(2021)、5月9日からインドで公開される『Bhool Chuk Maaf』などなど、いくつかの作品がある。

タイムトラベルにまで幅を広げると、かなり多くの作品があり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)を大雑把に下敷きとした『Action Replayy』(2010)や『あの時にもう一度』(2016)なども有名であるが、日本でもいつのまにか配信されていた『タイム・スプリンター』(2024)といった低予算映画まであったりもする。それに加えて、近年は、作中のセリフの中でもタイトルが出てくるが『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)や『ハッピー・デス・デイ』(2017)などの海外作品やアメコミ映画の影響も強くなっていて、SFとインドの社会情勢、神話などを組み合わせた大衆娯楽作は年々多くなってきている。ちなみに劇中でタイムループ映画の例を挙げていく下りは、『ハッピー・デス・デイ』のパロディだ。

とくにタミルにおいては、タイムトラベルが主体となった作品としては初となる『Indru Netru Naalai』(2015)以降、多くのSF作品を制作している。そのため、タミル語映画において、タイムトラベルというジャンル自体は、決して珍しい題材ではない。だからこそ、常に新しさを求められるともいえるジャンルとだろう。

今作を手掛けたヴェンカト・プラブといえば、2000年代後半からのタミル・ニューウェーブを支えた監督のひとりであり、近年はドラマシリーズのクリエイターとしても知られている。ファンタジー・ホラードラマ「Mangalya Dosham」では、265話のうち167話の監督を務めた。ヴィジャイ主演の新作『The Greatest of All Time』(2024)もSF要素の強い作品になっていたように、常に新しさを求めるハングリーなクリエイターといえるだろう。

今作においても、ポリティカル・サスペンスとSFを組み合わせることで、大規模な政治風刺作となっている。アメリカでもトランプ政権への不安と恐怖をホラーやサスペンスに変換した作品を多く制作したように、インドでもモディ政権、ヒンドゥー至上主義への不安と恐怖は多くの作品に反映されている。

前半はタイムループものとしては王道的な展開に思えるかもしれないが、後半に投入される追加ギミックが、物語をより複雑化させる。そんな巧妙な脚本にも注目してもらいたい。

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