映画・ドラマ評: 『JAWAN/ジャワーン』(2024)

“キング・オブ・ボリウッド”ことシャー・ルク・カーン主演作にして、2023年度のインド映画興収1位、全米でも初登場4位を記録したメガヒット作『ジャワーン』がついに日本でも公開されることに!!

監督は、『ビギル 勝利のホイッスル』(2019)や『ジョンとレジナの物語』(2013)など、日本でもいくつかの作品が公開されているタミル語映画のヒットメーカー、アトリー(作品によってはアトリ表記)。12月25日にもプロデュース作品で、ボリウッドスターのヴァルン・ダワンを主演に迎えた『Baby John』が公開となる。

近年、欧米スタイルになってきたことで、浮世離れした北のボリウッドよりも、土着愛の強い南インド映画が好まれ、その恩恵を受けようと、南のスターを出演させた作品がいくつか制作されるようになった。とくに「バーフバリ」2部作と『RRR』(2022)のヒットによって、それが過熱したといえるだろう。

もともとそういった作品が無かったわけではないが、母数は圧倒的に増えたといえる。少し前までは、地域ごとに映画スターが存在していて、その地域ごとで盛り上がるというのがスタンダードだった。もちろん例外的にシャー・ルクやラジニカーントのような南北共通のスターは何人かいる。

しかし『バーフバリ』公開以降、”汎インド映画”と呼ばれる、多言語同時公開が一般化したことと、配信サービスの普及によって、他の地域の作品も簡単に多言語で観ることができる環境になった。つまりインドにおける映画の在り方というのが、ここ数年でガラりと変わったことも重なって、南北ハイブリッド作品の制作が盛んになってきたのだ。

ただし、ボリウッドが弱体化したというわけではない。インド映画も様々なスタイルがあるため、あくまで大衆向け作品のひとつのトレンドとして受け止めてもらいたい。

そんなわけで、今でこそトレンドになりつつあるハイブリッド作品だが、シャー・ルクとアトリーがタッグを組むことは、インド映画界においては、長年話題の的となっていた。結果的に、この時期になってしまったというだけで、実はトレンドよりも、かなり先駆けてのプロジェクトだったのだ。

ちなみにインド映画は上映時間が長いイメージがあるが、それは幅広い年齢層が楽しめるように、様々なジャンルが盛り盛りに組み合わさっているからだ。しかし、そんな作品というのは、全体で2~3割の大衆向け作品。ほとんどの場合は2時間前後。さらに近年は、大衆向け映画でもダンスシーンを最低限にするなどで、上映時間の短い作品が増加傾向にあって、近年のハリウッド映画の方がよっぽど長い。

ところが南インドの大衆向け映画の場合は、そういうものだと振り切って、今でもジャンル盛り盛りにしている作品が多い。そこも好まれている要素のひとつなのだろう。その点でいうと、今作も文法的には、盛り盛りの南インド映画となっている。

脚本が巧妙であるからこそ、逆に目立ってしまう一部設定上の不具合や消化不良な部分、ツッコミどころも多々あるが、それを熱量で振り切っているのも大衆向けインド映画らしさがある。

ただ、今作で一番重要視してもらいたい点は、ガールズエンパワーメント映画としての側面である。アトリーは『ビギル 勝利のホイッスル』のなかでも女子サッカーチームとコーチの絆を描いていたが、テーマとしては今作も共通している。

あくまでシャー・ルク主演ではあり、インドの社会問題への風刺も含まれていたりするが、主題としては、女性たちの物語なのだ。ナヤンターラ、プリヤーマニ、サーニヤー・マルホートラ、サンジータ・バタチャリヤ、ジャリィといった、幅広い年齢層の女優やアーティストが出演しているし、演じている女優の特徴とキャラクター造形をリンクさせている部分もあるのだろう。

今作のハイライトでもあり、アトリー本人がサプライズ登場する「Zinda Banda」のダンスシーンでは、プリヤーマニとサーニヤーなどもダンスシーンにあまり登場しない女優が全力ダンスしているのだが、プリヤーマニとシャー・ルクのコンビで思い出されるのは、やはり『チェンナイ・エクスプレス~愛と勇気のヒーロー参上~』の「One Two Three Four」であり、一部オマージュされているように感じる。

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