
『マーヴィーラン 伝説の勇者』マドーン・アシュヴィン監督インタビュー!アフリカ音楽を意識?続編の構想?キャスティング事情など~
先日の『マーヴィーラン 伝説の勇者』音楽特集に続き、映画秘宝8月号、エンタメネクストなどで紹介してきた『マーヴィーラン 伝説の勇者』の監督を務めているマドーン・アシュヴィンのインタビューが実現!!
作品のテーマから、音楽への拘り、そして好きなアーティストについても聞いてみた。
■クライマックスの船のシーンでは、あくまで自分の意思としては、非暴力を貫いてきた主人公が非抵抗の相手も殺害するほど、圧倒的な暴力を受け入れて解決しています。ラストもそうですが、サティヤがそうするしかなかったことはバッドエンドというか、非暴力では解決できないような社会構造に対しての皮肉のように感じました。
マドーン監督>
私は、多くの民衆が背景にいるような、鬼気迫った場合によっては拳をもって制裁を加えるということも必要だと思っています。
しかしだからといって、暴力を肯定するという意味ではないのですが、あの場においてはサティヤにとって、それは”正義”だと信じた行動で、因果応報ともいえます。
船のシーンでは致命傷は負ったとは思いますが、実は誰も死んでいないんです。私はそのつもりで撮影しました。
■サティヤの父親は活動家のようなにことをしていて、それが原因で亡くなったようなことがセリフにあったと思うのですが、具体的には死因は何だったのでしょうか?バックストーリーがあれば教えていただきたいです。また父親を尊敬していながらも、声をあげることの代償を考えるようになったのは、父親の死が大きく影響しているように感じましたのですが、サティヤの性格の影響は、やはり父親の影響が強いのでしょうか?
マドーン監督>
サティヤの父は、活動家として行動し、サティヤの目の前で殺害されています。それがサティヤのトラウマでもあり、彼の性格や正義の定義の原型となっているのは間違いありません。
実際に父がどういったことをしていたかについての物語は、今後深堀りするつもりなのです。
しかしそれは、現在準備している続編に盛り込もうと思っているため、今ここで話すことができないのです。
■ラージ役のモニシャー・ブレシーは、ドラマやバラエティ番組などに出演するテレビ俳優というイメージが強く、最近もAmazonプライムドラマ「運命の螺旋」で印象的な役を演じていました。モニシャーのキャスティングはオーディションによるものですか?
マドーン監督>
そうです。今回のキャスティングは、ほとんどオーディションで決めました。
モニシャーの場合は、テレビのコメデイ番組にも出演していますから、見ていた俳優ですし、私の前作『マンデラ』にもノンクレジットで少しだけ出演していました。
初めての起用ではないのですが、それでも3回オーディションを行いました。
■近年キャスティングプロセスが民営化になってきていて、ボリウッドでは主役級でもオーディションをすることがおかしくない時代になったと、あるキャスティングディレクターの方が言っていたのですが、演技力があればテレビ俳優であっても活躍できるチャンスが増えたのはタミルも同じでしょうか?
マドーン監督>
そうですね。新世代のオーディションに関してはタミルもInstagramやXなどのSNSを通して、オーディションを呼びかけることが一般的になりつつあります。
キャストだけではなく、助監督や撮影スタッフなども募集することがあったりで、以前と比べてかなりオープンな業界になっていると感じます。
たまにプロデューサーの知り合いだから~というコネでのキャスティングが無いとは言い切れず、そこはグレーな部分があります。
しかし、基本的にオーディションを勝ち抜いてきた実力者たちと並んだ際に、そういった人たちは浮いてしまいますね。なのでチャンスは全体的に広がっていると思います。
■ADFXスタジオがアニメーションパートなどのデザインを手掛けていますが、このスタジオはヴィジャイ主演の作品や『マーク・アントニー』などのアニメーションパートも手掛けています。今作のデザインの部分で、何か”こういう風にしてほしい”といったような注文はそれたのでしょうか?
マドーン監督>
サティヤの描いている新聞漫画「マーヴィーラン」には、実はモデルがあります。それは4コマ漫画として60年続いている、もはや伝統ともいえる「カンニ・ティーヴ」という作品です。そのため、それを参考にしています。
そのため4コマ(タイトル部分含め5コマ)の構成というのがスタートしていて、インクやパターン、線のテイストに関しては、独自なものではありますが、基盤となっているのは、やはり「カンニ・デーヴ」です。
またアニメーションパートも同様となっております。
■現在公開中の『サグ・ライフ』や『プシュパ2』など、タミル語映画で最近、少しだけ日本が舞台になっているものが増えてきました。マドーン監督自身、今後日本を舞台にしたり、日本要素を取り入れてみたいと思いますか?
マドーン監督>
是非、日本を舞台にした作品も撮ってみたいですが、残念ながら今のところは、まだ企画がありません。
私は、まだ日本に行ったことがないので、実際に行ってみれば、多くのインスピレーションをあたえてもらえるだろうとは思っています。
今のインド映画業界は、かなりオープンになっていて、外国で撮ることで助成金が出る制度などもあったりするので、今後良い機会があれば実現させたいとは思います。
■私は日本のインド音楽専門メディアとして、インドの監督、俳優、アーティストのインタビューの際には、いつも聞いている質問があるのですが、好きなアーティスト、または曲があれば教えてください。
マドーン監督>
私のオススメするアーティストは、イラヤラージャ(Ilaiyaraaja)です。
多くのアーティストやロイヤル・フィルハモニー・オーケストラともセッションしていますので、聞いたことがあるかもしれませんが、イラヤラージャが参加している曲は、どれもおすすめです。
〇イラヤラージャとは、『ダラパティ 踊るゴッドファーザー』(1991)や『ヤジャマン 踊るマハラジャ2』(1993)といった、とくに南インド映画音楽においては有名な作曲家であり、マドーン監督が言うように、ロイヤル・フィルハモニー・オーケストラなどともセッションするなど、世界的に知られているアーティストだ。
ちなみに『マーヴィーラン』の「Scene Ah Scene Ah」にはアンタークディ・イラヤラジャ(Anthakudi Ilayaraja)が参加しているが、文脈的にイラヤラージャのことだと思うが…。
■アルニドやアンタークディ・イラヤラジャ、主演のシヴァカールティケーヤンなどがシンガーとして参加し、音楽監督はバーラト・シャンカールですが、アーティストの選出はマドーン監督自身が行ったのでしょうか?
マドーン監督>
そうです。バーラトは私の長年の友人ですし、ほかのクルーたちも実はそうなんです。なのでみんなでアットホームな感じで話合いながら決めていきました。
実は『マーヴィーラン』の音楽には、マダガスカル出身のアーティストを起用するなど、アフリカン・ミュージックの要素を入れています。
音楽の中で、タミルとアフリカのコラボが実現しているのです。
■『マーヴィーラン 伝説の勇者』作品情報
【ストーリー】新聞の長期連載漫画「マーヴィーラン」の作者であるサティヤ。気弱な彼は、人一倍負けん気の強い母の起こす騒動を収めるのに必死の毎日。そんなある日、住居のある地域一帯が開発対象となり、立ち退きを余儀なくされてしまう。新たな住処として提供された高層マンションに浮かれる一家だったが、そこは悪徳政治家ジェヤコディ一派が仕切る手抜き工事の元に建てられた「欠陥住宅」だった!サティヤは意を決して彼らに立ち向かうが、すげなく返り討ちに遭ってしまう。自らが描き続ける「マーヴィーラン=偉大な勇者」と己のギャップに、絶望の淵を覗き込んだその後―――奇跡的に生還したサティヤの耳元で、勇壮な「声」が鳴り響くようになる。その声はサティヤを「勇者」と呼び、ジェヤコディを「死神」と呼ぶのだった。果たしてサティヤは、真の「マーヴィーラン」として、民衆を苦しめる巨悪に立ち向かうことができるのか!?
【クレジット】
監督・脚本:マドーン・アシュヴィン
出演: シヴァカールティケーヤン、アディティ・シャンカル、ミシュキン、スニール、ヨーギ・バーブ
2023/インド/タミル語/カラー/161分 字幕翻訳:藤井美佳/字幕監修:小尾淳
原題:MAAVEERAN 応援:インド大使館
映倫:PG12 配給:ファインフィルムズ
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HP:maaveeran-movie.com
7月11日より公開中!!