映画・ドラマ短評:『DeAr』(2024)

2024年4月に公開されたタミル語映画『DeAr』

タイトルの意味は、主人公ふたり、ディーピカー(アイシュワリヤー・ラジェシュ)とアルジュン(G・V・プラカーシュ・クマール)の頭文字をとったものとなっている。

よく互いを知らないまま、お見合い結婚してしまう南アジア特有の結婚事情は、少しまえまで当たり前とされてきた。

しかし、近年はマッチングアプリも普及し、昔ながらのお見合い結婚というもの自体が減少傾向にあり、映画やドラマでも、そもそもそれがおかしいことだとはっきり主張できる時代になってきたといえる。

『おかしな子』や『美に魅せられて』などもそうだし、イギリス映画『きっと、それは愛じゃない』でも俯瞰的に描かれている。

今作もお見合い結婚した相手の欠点を新婚初夜に知ってしまうところから、後戻りできない夫婦生活をどう切り抜けて、どう折り合いをつけていくかを皮肉的に描いたコメディである。

アルジュンは、ニュースキャスターをしており出世欲が強い。仕事のパフォーマンスを高めるべく睡眠には人一倍拘りをもっていて、とにかく邪魔をされたくない。鉛筆が落ちただけでも目が覚めてしまうため、ディーピカーにも寝る際にはバングルなどのアクセサリーは外すように言うほど。

しかし、ディーピカーの欠点は、とにかくいびきがうるさいことだった。

眠れなくなってしまったアルジュンと、寝かせてあげたいと思うディーピカーが出した結論は、それぞれが1日おきに寝るということ。それをカレンダーにDe(ディーピカー)、Ar(アルジュン)と書いていく行為が今作のタイトルとなっているのだ。

交際期間があれば、互いの欠点に気づけたかもしれないが、それを通り越して結婚してしまうと、互いの欠点を知ったからといって簡単に別れられないわけで、何とか解決策を見出そうとしているし、ディーピカーとアルジュンも決して愛していないわけではない。

とくにディーピカーは、アルジュンへの想いが強く、いびきで拒絶されていながらも、睡眠不足になったアルジュンの体調を心配する様子がかわいそうなシーンが多い。

アイシュワリヤーは、『Theera Kadhal』やタミル語リメイク版『グレート・インディアン・キッチン』など、なぜか結婚に恵まれない役が多いが、女性の内なる強さを体現できる女優だからこその安定感は確実にある。

今作も、そんなアイシュワリヤーの存在感と演技力によってかなり助かっている部分が多い作品で、これといって解決策が見いだせないまま、ダラダラと物語が展開されていくだけで、結局のところ夫婦なんだから、結婚してしまったんだから仕方ない……。みたいな着地点になってしまっており、この作品だからこそのアンサーというものが無かったのは残念である。

ちなみにアルジュンの寝室にジェニファー・ローレンスの写真があり、何度か印象的に映し出されるのだが、それの意味がよくわからなかった。単純にアルジュンの好きな女優という意味では意味深に映し過ぎだ。

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