インドエンタメあれこれコラム:ラブシーンについての間違った認識
インド映画のよくある情報のなかで、恋愛シーン、とくに性描写はタブーだから、それをミュージカルで表現しており、ミュージカルが多いと記載されたものがあったりするが、これは全くの間違い。
日本人でも大衆映画しか観ない人のほうが多数派であるように、インドでもアート系や人間ドラマが主流のもの、社会派な作品は観ない人は多い。
そのため、そういったインド人やインド在住の外国人(日本人も含めて)たち自身が間違った情報を世界に広めてしまっている側面もあり、インド人が言っているからと言って、それが必ずしも正しいことではないことは認識しておいてもらいたい。
確かに、子どもから大人までをターゲットとした大衆映画においては、恋愛シーンをがっつり描くわけもなく、それをミュージカルシーンでなんとなくにおわせているという演出はある。だが、それは日本や他の国の映画も同じ。例えばアイドルが主演の作品も、ラブシーンはなんとなく描かれていることが多いはずだ。
シャー・ルク・カーンやタイガー・シュロフのように、みんなのスターという認識の俳優の場合は、直接的なラブシーンは避けていたりもするのだが、不倫愛をテーマとした『さよならは言わないで』(2006)では、キスをしない代わりに、頬をすり合わせるという犬の愛撫のようなシーンがあり、逆に変態感を感じさせてしまうし、『Pathaan/パターン』の「Besharam Rang」もセックスを想像させて過激すぎると苦情がきたこともあったりと、本末転倒なことも多い…..。
ゾーヤー・アクタルのように、大衆をターゲットとした作品であっても、『人生は二度とない』や『鼓動を高鳴らせ』では直接的でないにしても性行為を連想させる演出をいれるなど、冒険的なことをしてきた映画人もいて、評価されたりもしている。
もしくは宗教上だったり、保守的な観点、婚前性交が悪としている思想の映画人が撮った作品の場合は、そういったシーンを入れていないこともあるが、とくに近年はかなり少数派といえる。もともと中東などでもよくあることだ。
つまりインドだから~というわけではなくて、単にレーティングや映画人の思想の問題であり、そういった作品はインド映画全体でみた場合、かなり少数派だ。とくに近年は。
そのため、ある程度客層を絞った作品やインディーズ系、配信系作品に関しては、普通に性描写があったりする。
Amazonプライムドラマ「フォー・モア・ショット・プリーズ!」は、インド版「セックス・アンド・ザ・シティ」と呼ばれているだけあって、セックスシーンが頻繁にあるだけではなく、Fワードや女性器を大声で叫ぶシーンもある。34回東京国際映画祭で上映された『もろい絆』や、ラージクマール・ラーオ主演の『BHEED』においてもセックスシーンはあった。
別に性描写やラブシーンを必要以上に入れる必要もないが、どうも世界、とくに日本の認識がかなり周回遅れしているのが残念でならない。