映画・ドラマ短評『相撲ディーディー』(2023)
プリヤンカー・チョープラーが女性ボクサーのメアリー・コムを演じた『メアリー・コム』や近年タープシィー・パンヌ、パリニーティ・チョープラー、アヌシュカ・シャルマなどのスター女優が実在の女子スポーツ選手を演じる作品が多く制作されているが、今作はそういったスター女優ではなく、タイガー・シュロフ主演映画『タイガー・バレット』など、ドラマや映画の脇役でしか出演したことのない、ほとんど無名ではあるものの、『アーチーズ』で本格デビューするシャー・ルク・カーンの娘スハナ・カーンと共にフレッシュな若手女優としてメディアで紹介されたこともあるシュリヤム・バグナーニーを起用し、さらにインドではそこまで知られていない相撲、しかも女性というスポーツを取り上げた作品という点でかなり狭いジャンルを取り上げた作品となっている
『ジョン・ウィック:コンセクエンス』などにも出演する元力士俳優の田代良徳が出演したタミル語映画『SUMO』や、近年の配信サービスの普及に伴って各国の作品の供給量が大幅に向上したといっても、まだまだニッチなスポーツである。田代の場合はキャラクターとして人気が出ただけであり、相撲を通じてというよりも外タレ枠のようなものの側面が強いと考えた方が良い。
日本でもクリケットなどのスポーツが知られていても、実際に観戦する人は少ないいう、知られてはいるがわざわざ見るというほどでもないスポーツジャンルといえるだろう。
全体的な構造としては、スポコン+インドにおける女性の在あり方といったものを描いているが、インドで制作された女性スポーツ選手映画は、どうしても「女性なのに~」というアウェー感に触れなくてはならないため、どれも同じような構造になってしまうのは仕方ないし、ルッキズムに悩む女性のジレンマについても「フォー・モア・ショット・プリーズ!」をはじめとするドラマなどでも描かれているし、実際にシディの物語にも似ている部分があった。ただ今となっては、ルッキズムと、それを取り巻く家族・結婚事情を描くことは今となっては珍しくない。
主人公ヘタルには何人かの候補がいたらしいく、シュリヤムは監督がNetflixのドラマを観て気になって起用したとインタビューに答えていたが、Netflixドラマには出演しておらず、おそらくDisney+Hotstarで配信されている『City of Dreams』のことではないだろうか。
今作の場合は、コメディ色の方が強いため、相撲の修行シーンを通じて日本のステレオタイプな部分をおかしく描くことで、細かい笑いを拾おうとした姿勢がどうも邪魔をしていて、さらにそれが後半部分にあるためストーリーの流れを崩してしまっていて、最終的にカジュアルな印象を残す。それによって、フェミニズムにもインドにおける女性相撲の向上ともいまいちリンクしていかないバランスの悪さが目立つのが残念でならない。
決して悪い作品ではないが、傑作とも言い辛い並バランスの作品だったといえるだろう。
ちなみに東京国際映画祭が初めてのお披露目だったらしく、インドでもまだ公開されていない。劇場公開も視野に入れているとのことだが、コミカルな作品としてそこそこ評価されたとしてもドラマ性の評価はあまり得られないだろう……。