ドラマ『女子高生は泣かない』(Amazonプライム)特集
■キャストについて
『RRR』のアーリヤ・バットの姉プージャ・バット(『ボンベイ・ベイガム-私たちのサバイバル-』『デザート・フォース』)やゾーヤ・フセイン(『ハーティー 森の神』『ボクサーの愛』)といった中堅女優も出演しているが、今後のインド映画、ドラマ界を担う若手女優たちが多く出演している。
ラーナー・ダッグバーティ主演ドラマ「ムンバイ・フィクサー」にニトヤ役で出演していたアフラー・サイード、『ニールジャー』『サタジット・レイの世界』などに出演するヒマンシー・パンディといった演技経験者もいれば、カヴィヤ役のヴィドゥシやディア役のアクスタ・スード、JC役のラキラなど、他にもフレッシュな俳優たちを多く観ることができる。
また、かつては『Babu Baga Busy』や『Rarandoi Veduka Chudham』といったテルグ語映画に子役として出演していたが、現在はミュージカル舞台版を映画化した『ミーン・ガールズ』やディズニーチャンネル映画『スピン』、Netflix映画『シニアイヤー』などアメリカを中心に活躍していた アヴァンティカ・バンダナプ が国際的女優となってインドエンタメに戻ってきたというのもキャスティングとしては注目すべき点である。
■タイトルに込められた意味とは?
原題「Big Girls Don’t Cry」は、ファーギーの同名曲が元になっているのだ。だからといってファーギーの自伝的なものというわけではなく、クリエイターのニティヤ・メヘラーがこの曲がヒットしていた当時、自分自身に通じる曲であるのと同時に、若い女性の心情を捉えた曲だと感じ、どこかでそれをタイトルにした作品を作りたいと思っていたからだ。
「Big Girls Don’t Cry」 とは “大人の女性は泣いたりしない” という、少女から女性への成長過程の繊細な部分を描いたものであめが、まさに今作のコンセプトと合致する。
ニティヤといえば『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』や『その名にちなんで』の助監督としても知られているが、シッダールト・マルホートラ、カトリーナ・カイフ主演の『あの時にもう一度』の監督であり、Amazonではドラマ「メイド・イン・ヘヴン ~運命の出会い~」も手掛けるなど、2010年以降のインド映画・ドラマ業界で地位を確立してきた女性監督。
激変するインドエンタメ業界のなかにいたニティヤだからこそ、インドに生きる3世代の女性の視点を通して”変化”の描き方には説得力がある。
ちなみに第2話では、『あの時にもう一度』の監督という繋がりがあるからか、カトリーナ・カイフの写真とエンディング曲であり動画再生回数9億回を突破した「Kala Chashma」が使用されていたりもする。
■校長も主人公のひとり
生徒たちをとりまく環境に不自由はあるが、この学校の趣旨としては、社会で通用する独立した女性になること。つまり女性として、どうあるべきかという、いわゆる男性優位主義、家父長制度の社会と闘うすべを教えているのだ。
そこには育ちや経済状況も関係ない。
実際にAV校長(プージャ・バット)が1話の時点で「あなたたちは何物か」という問いかけをしているのも印象的だ。
言葉数が少なく、ときに冷酷に見えるが、彼女は彼女で学校を存続させなければならないという責任から、ときに家父長制度に屈する場合もあるものの、生徒たちの成長と時代の変化、そして男性たちの意識も変化してきていることを肌で感じながら彼女自身も成長していく。
キャラクターが多く、メインキャラクター以外にも取り上げられるキャラクターが何人もいて、7話しかないというのに、ひとりひとりにかける時間配分が見事で、それでいて教師サイドの物語も描いている。
■一時的な感情を多様性と結びつけることへの疑問を投げかける
今作でルド(アヴァンテカ・ バンダナプ )は、ヴィドゥシ( ヒマンシー・パンディ )との関係に苦しんでいる。それは単純に好きかもしれないという想いと動時に、その感情が本物なのかということについてだ。
そんなルドとヴィドゥシの関係を誰かが告げ口したことで、同性愛者であることを理由に、停学にされ、復帰したと思えばすぐに隔離されてまう。もちろんこういった行為は行き過ぎているし、多様性を無視した悪しき風習である。
しかしその一方で、自分たちがそうであると決めるには、時間をもっとかけるべきだという意味も込められている。
なぜなら、同性に惹かれたから、それが同性愛に繋がるかというと、そうではなかったりするからだ。
女子寮という環境や、今作でいうとヴィドゥシの積極性に押されて一時的に芽生えた感情かもしれない。しかし現代社会は、ケースバイケースだというのに、それを親切心のように同性愛やバイセクシャルと結び付け、決めつけて、あたかも理解者かのように”カミングアウト”する勇気を訴えかける。
ルドは、まさにそこで悩んでいるのだ。自分が同性愛者ということを悩んでいるわけではなく、本当にそうなのかということで悩んでいるのだ。そこに自分の夢や、やりたいこと(バスケットボール)を天秤にかけても、ヴィドゥシへの愛が勝るのかもわからなくて葛藤している。
AV校長も自分が同性愛者であると心から確信したヴィドゥシの姿を見て、口を出さずにそっと身を引く。この行為そのものが、AV校長が多様性を無視する人物でなく、生徒たちが悩んで出した回答を否定する人物ではなかったことを証明している。
■音楽について
サウンドトラックには、日本の漫画やアニメといったカルチャーに大きく影響を受けているアーティスト、コモレビが参加している。コモレビはAmazonブライムドラマでいうと、他にも「メイド・イン・ヘヴン」にも参加しており、2度目の参加となる。
そして、もうひとり注目すべきアーティストはマリ。オープニングとエンディング曲に参加している。
Netflix映画『アーチーズ』の男性パートとして参加したテジャスと共にビートルズをインスパイアしたアルバム「Songs Inspired By The Beatles And India」では、「アクロス・ザ・ユニバース」をカバーした。
どちらのアーティストも優しい歌声の持主で、女子高生の繊細な気持ちを表現するうえでうってつけだ。